2001年7月291号
週刊東亜
[ライフ]冷麺・・・同じようだが | |
咸興式・平壌式, スープによって、麺によって、味は各々… 夏の珍味 ‘暑さ退治’は共通 ![]() 冷麺製造生産業体 H製粉 代表 ユン・某氏が、昨年、食品医薬品安全庁が冷麺粉生産時に蕎麦粉を5%以上含まなければならないとしたのに、これを欺くために炭の粉を混ぜたとして差押さえ処分を下されて訴訟を提起した. これに対して法院は、“さつまいもの澱粉が主原料の咸興冷麺は蕎麦粉を使用する平壌冷麺ではないので、蕎麦粉を混ぜたように見せるために炭の粉を混ぜたとしても、これを‘欠陥のある原材料’だと見ることはできない”と判決した. これによれば, 食品公定規定上は、すべての冷麺には必ず蕎麦粉が入っているように規定されているが、この時の冷麺は‘平壌冷麺’だけを意味することだとみなされるということだ. ユン氏は‘冷麺は黒くなければならない’と考える人の先入観のために炭の粉を使ったと話した. 大部分の冷麺店では、水冷麺(ムルネンミョン)とピビム冷麺を両方とも取扱う. しばしば人は汁に浸っていれば‘水冷麺’, たれにからめるならば‘ピビム冷麺’だと考えていて, 冷麺といえば、‘黒く、細くて丈夫な麺’をすぐに思い起こすが、冷麺だからといって、すべて同じ冷麺というわけではない. 平壌冷麺は淡泊さと素朴な味 ![]() 平壌冷麺は蕎麦を, 咸興冷麺はジャガイモやさつまいも澱粉を主原料に使う. それで、平壌冷麺は簡単に噛み切れるが, 咸興冷麺は容易には噛み切れないほど腰が強い. 平壌冷麺はトンチミ(かすかに酸味の有るスープ)や肉スープとよく馴染み, 咸興冷麺はピビム冷麺が格別だ. 元来、平壌ではキジ肉スープを多く使っていた. キジがなければ、牛の胸肉と臀部のスープにトンチミ汁を合わせ、次に、ダイコン, 肉片, きゅうり, たまご などを加えた. これに比べ、咸興冷麺は、麺に、カレイ・エイの刺身を入れ、唐辛子みそなどの薬味を混ぜて食べる. 異なる材料, 異なる調理法で作った食べ物であるだけに、味も違う. ![]() 平壌料理は、元来、塩っぱくも辛くもない淡白さが特徴であるため、平壌冷麺も淡泊で素朴なのが正しい味で, 蕎麦とジャガイモの澱粉を5対1に混ぜて麺を打ち、粘りを出す. 最近では、蕎麦に小麦粉や澱粉をより多く混ぜて粘り気を生かす所が多いが、あまり粘り気があり過ぎても麺の深いうまみを出すことができないと美食家たちは言う. 北に故郷を置いてきた者たちは、冬の夜が深まる時に夜食として食べた冷麺の味を忘れられない. ソウルで有名な平壌冷麺専門店のひとつの‘ウレオク’で会った パク・ジンヒョさん(76)は、平安道が故郷で, 子供のときに食べた冷麺の味を忘れられずに、50年間この店を出入りする常連中の常連だ. “むかしは、主に冬に冷麺を食べたものです. さわやかなトンチミ汁がうまみを出し始めたら麺にかけて、暖かいオンドル部屋でふとんをかぶらないと冷える程冷たい冷麺を食べるのが最高の夜食でしたよ.” キジ肉がなければ、うさぎ肉でスープを出すこともしたとパクさんは伝える. 彼が越南した46年には、ソウルに冷麺店はウレオク1ケ所しかなかった. その後、避難民たちによって冷麺店が続々開かれたが, 丁度提灯のように韓紙を丸く巻いて軒に下げておいてあったのが、冷麺店という表示であった. 政治家たちと有名人の中にも、冷麺愛好家が多い. 文民政府の時期, 大統領府はカルククス(註:韓国風うどん), 三清洞 総理公館は冷麺で象徴された頃があった. 総理公館冷麺は文民政府三番目の総理だった李栄徳総理がはじめだった. 平安道出身の李総理は冷麺を好み、普段は冷麺店を頻繁に訪れたのだが, 総理になった後、冷麺店の出入が難しくなると、いっそのこと総理公館に製麺器を設置して来客に平壌冷麺を接待した. キム・ドンギル延世大名誉教授と彼の姉 キム・オッキル 前梨花女子大総長は、一つ家に暮らしながら来客に冷麺とピンデトックを接待したことで有名だ. 彼ら姉弟の家に行って冷麺を食べていない人は、名士の列に混ざることができないという言葉が出てくる程だった. 韓民族福祉財団 チョン・ジョンエ副理事長は、“ふたりは、来客がある1週間前からキムチを漬けてキジ肉スープを煮出す等、万全の準備をしておいしい平壌冷麺を接待した”と回顧する. 北朝鮮で平壌冷麺と咸興冷麺を代表する所は、平壌の玉流館と咸興の新興館だ. 北朝鮮が世界で最もおいしい冷麺店だと宣伝する玉流館は、料理士だけでも300人で、一日最大1万杯の冷麺が売れている. そこで冷麺の味を見た人は、“韓国よりも麺が1.5倍くらい太くて、麺とスープの色が黄土色です. スープは濃い鶏肉の香りを漂わせ、あたかも蔘鶏湯(サムゲタン)を冷やしたような感じでした. 初めての味は、特に感じなかったのですが、スプーンを置くと、香ばしい余韻が胃の中に走りました. 黄海道 新川が故郷のノ・ジュンヤン教授(ソウル大 医大)も、ちょっと前、平壌を訪問して玉流館の冷麺を味わって帰ってきた. そこでは冷麺を 100g, 200g, 300g 等にわけて売っていたのだが、普通は200gがおとな1人が食べるのに適当な量だ. ところが、彼は座った席で700gを食べたという. “ソウルにもおいしい冷麺店が多いのですが, そこの冷麺の味は本当に立派でしたよ. 純蕎麦で作った麺がさらさらとのど越しがよく、底が見える程に澄んだスープは、すっきりして爽やかでした.” 北朝鮮 玉流館 一日最高1万杯 販売 一昨年には、ソウルにも‘玉流館’という冷麺店が開かれて話題を呼んだ. 材料を北朝鮮から入れ, 平壌本店で調理技術を研修した在日同胞調理士を連れてきて、本場の冷麺に最も近い味だと宣伝したおかげで、客たちがひきもきらずに続き、開業当時には、一日に3000〜4000杯の冷麺が売れた. その後、そこで使っている材料がすべて国産であり、北朝鮮の玉流館と直接契約を締結したわけではないということが知られ、しばらく騒がれたが、今でも週末には2000人に近い人が平壌式冷麺を食べるためにこちらに立ち寄る. ‘本物’‘にせ物’を離れ、故郷に帰れない者たちの故郷を懐かしむ郷愁と、統一に対する念願が冷麺一杯に含まれているためだろう. 失郷民でなくても、冷麺はすでに、誰にでも身近な私たちの料理になった. 単に冷やして食べるということではなく, それぞれの差を知って、真の味をさがそうと努力すれば、冷麺一杯で王様もうらやましくないご馳走になりうる. 料理コラムニスト コ・ヒョンオク氏は、“咸興冷麺専門店で水冷麺を食べたり, 麺をはさみで切って食べるのは、冷麺の味を知らない人だ”と話した. < シン・ウルジン 記者 > happyend@donga.com
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