2001年8月NEWS PEOPLE 482号

[宝くじ熱風] あくなき夢を追う人々



“やあっ!” 小さく気合の入った声を出す30代のアジュマ(註:おばさん)の表情は、なんとも真剣だった. 小さな紙切れに向かって、少しの間目をとじて気合を入れるママの姿を、二人の息子はおもしろそうにママを見た.
ママの手に握られている小さな紙切れは、住宅宝くじ3枚. 宝物でも扱うように大切に扱う彼女の手によって、この宝くじは財布の奥深くにしまいこまれた.
何日か過ぎれば、この宝くじの運命は決定される. 主人の歓喜の洗礼を受けるのか、揉みくちゃにされてごみ箱に投げ捨てられるか. 短気な主人なら、びりびりに破られるかもしれない.議政府に暮らしているというこのおばさんは、何故宝くじを買うのかという質問に、‘早く帰って夕食をつくらなきゃ’と、あわただしく消えた.

8月9日 夕方7時、ソウル地下鉄市庁駅. 退勤する会社員たちの足が駅構内を占領する頃になると、賑やかにせわしくなる所がある. 宝くじ販売所だ.一坪にもならない空間で売っている宝くじが人々の気分を左右させるという所.
宝くじ販売所と向き合う人々の表情は、時々刻々変わる. 笑う人, 不快な表情をする人, ため息を吐く人, 怒る人.だが、全てのものが決定されるまでの人々の心がけは告解聖事を見る心情のようだ.現実を皆忘れて、原初的本能へ帰る瞬間だ.人々の部類も多様だ.サラリーマンから、家庭の主婦, 大学生, おじいさん, おばあさんに至るまで、いずれもわたしたちの隣人たちだ.‘ひま潰し’と話す彼らの表情は、当選かはずれかを確認する瞬間には子供になる.

ある宝くじ販売所の前を通りかかった一人のアジョシ(註:おじさん)がふっと足を止めた. 財布から宝くじ5枚を用心深く取り出し 宝くじ販売所に迫る顔には‘ひょっとして’という心情が歴然だった. ごま粒のように小さく書かれた当選一覧表を手で一つ一つなぞって確認した彼は乾いたつばを飲み込んだ. 5枚を確認するのにかかった時間は、3分. すべて‘はずれ’だった.揉みくちゃにされて次々ごみ箱に放り込まれる宝くじのように、一枚ずつ確認する彼の顔は徐々にしわくちゃになっていった.

“ふうっ-” チェ・ビョンリョン氏(55)は短いため息を吐いた. 彼は、“宝くじを持っていれば、心が安楽になって、1年前から買い始めているのですが、小額でもまだ当ったことがありません”と、苦笑した.
仕事帰りに宝くじ1万ウォン分を買った会社員チェ・ソングン氏(44)は、“若い人が宝くじ販売所前に立っているのを人々が良くは見ていないようで、宝くじを買うことがちょっとぎこちないですよ”と、急いでその場を離れた.
子供の手に引き摺られて販売所を訪れることもある. 主婦イ・ギヘさん(38)は、小学校に通う息子のソンファに勝てず、ここで5枚を買った.彼女は、“最近、宝くじで大当たりが出たということを聞いて、ひょっとしたらという気持ちでこの宝くじを買いました”としながら、“初めて買ったのですが、当たればいいですね”と笑った.

9日 夕方9時.ソウル 地下鉄 鍾閣駅.
退勤時間が終わった時間だが、仕事帰りに一杯ひっかけていく会社員たちと若者たちで、地下鉄はまだ満員だった. ここの宝くじ販売所は、計5ケ所.市庁駅よりは人々の往来が多く、それぞれの宝くじ販売所ごとに人々の足が絶えなかった
.ここで宝くじを売っているパク・ウンヒさん(35)の言葉.“ストレスを解消するために宝くじを買っているようです.外れてしまったら気分は良くないけど、当選発表を待ったり、インスタント宝くじを削る間には、期待感と興奮で気分が良くなります.”
姪と一緒にそこで宝くじを売り始めて1年半になったという彼女は、“宝くじを買う人々の表情と行動には、世の中の事が皆入っています”と話した.
“宝くじを買う人もいろいろです。楽しみで買う人もありますが、切実な理由を持った人々も少なくないでしょうね.いつも宝くじを買いに来るおばさんは、借金の保証人になったことが間違いで、こつこつ働いて建てた家まで全てなくして、宝くじを細い希望として生きていましたよ.そんな方たちを見ると、私までも本当に当たればいいな、という気がしますよ.
”常連客たちの理由を紹介しながらも、彼女の手は小さなプラスチックウィンドウの向こうから客が差し出した小額 当選宝くじを他の宝くじに取り替えたりして休む余裕がなかった.

宝くじを売ることは、彼女にとっては最も基本的な業務. 人々の悲喜が交錯する所であるだけに、サービスが重要だというのが彼女の説明だった.
“宝くじがはずれた後の表情を見れば、性格がわかります.はずれを確認するやいなや宝くじを引きちぎる人があるかと思うと、‘ハハハ’と笑って行く人もありますよ. 何か良いことがあったのか、お酒を一杯呑んで、宝くじを買う気分だったんでしょうね. 人によって気分を合わせてこそ、お得意さまにすることができます.”人々の気分によって、共に笑ったりもして、慰めもしてくれるという彼女の顔には豊かな笑いが浮かんでいた.

小さな文字がよく見えない老人に代わって当選を確認するのも、彼女の仕事だ.
この日も、70代の老人が宝くじを持ってきた.老眼鏡まで取り出して当選掲示板を穴があくほど見回していた彼の腰は、力が抜けたようにますます曲がっていった.
“おじいさん, 当らなかったよ.今度は駄目でした.”続けて確認してあげるパクさんの言葉に、彼は“駄目でしたか?”と足を返したそのおじいさんは、なかなか動き出せず、名残惜しそうに何度も販売所を見て、人々の間に消えた.

暫くして販売所の小さな窓の向こうに現れたのは、酒のために赤らんだ顔だった.
気分の良いことでもあったのか、にこやかな笑いを見せる彼は、自営業者チェ・ヨンモク氏(45).良いことがある度に宝くじを買うという彼は、宝くじを買い続けて10年を超えたという. “まだ借家住まいですよ.でも、家を手に入れるためというよりは、生の期待感で宝くじを買うという表現の方がしっくりきますね.財布に入れておくと、暖かいんですよ.宝くじは私にとって生活の潤滑剤です.” 宝くじを手に持って家に向かう彼の後ろ姿は、ひたすら子供だった.

最近、この地では、時ならぬ宝くじ熱風が起きている. 宝くじと夏は相性が悪く、今頃は非需要期だが、宝くじを求める人々が少なくないのだ.
最近、宝くじの大当たりの報道をずいぶん見ている.鍾閣駅 宝くじ販売所1ケ所で一日に売る宝くじは、200万〜300万ウォン水準だ.販売手数料が10%である点を勘案すれば、毎日20万〜30万ウォンを稼ぐわけだ.
宝くじ販売商 パク氏は、“非需要期であるのに拘わらず、一日平均訪れる人が普段の20〜30%くらいは増えた”と明らかにした.

鍾閣駅内の別の宝くじ販売所.そこは、特に宝くじ派にとっては面白味がたまらない.今年に入って、宝くじ一等当選が3回も出てきている上、放送にも登場して、宝くじ愛好家たちの足が大きく膨らんだためだ.
お客さんがどれくらいあるかとの問いに、主人のチャ・ドクジョン氏(50)は、“お客さんはそんなに大きくは増加していません”と言いながらも、“一等の当たりが出た販売所は激励金として1千万ウォンがもらえるという噂を聞いているお客さんも多いけれど、販売額は明らかにすることができません”と 区切って話した.
この販売所 で最も大きい得意客は、定期顧客.毎週一回づつだけ訪れるのだが、少なくないお金を粘り強く宝くじに投資する人々だ.
会社員 オ・某氏(30)も、この販売所の上客だ.この日も仕事帰りに寄った.あらかじめ準備しておいてくれという頼みをチャさんは忘れてしまったのか、その時になってオさんが頼んだ宝くじを袋に入れ始めた.結婚準備資金を用意するために宝くじを買うというオさんは、“3ケ月前からこの販売所に決めて、毎週抽選式宝くじを60枚ずつ買っています”としながら“普通は3〜4万ウォンで、たくさん買う時には、10万ウォンまで買ってみたこともあります”と話した.

休む暇のない宝くじ販売所のそばでも、若者達の手の動きが速くなっていた.すなわち、宝くじを買う30代以上は主に家で確認するけれど、大学生や20代の恋人たちはその場で確認するためだ.大学が同じ友人のビョン・セジュン・ムン・スギョンさん(21)も、コインで一生懸命に宝くじをこすっていた.小額当選で3回も宝くじを交換した結果は、‘はずれ’.彼らが離れた後には、はずれくじの痕跡だけが残っていた.

10日午前8時30分、ソウル地下鉄新道林駅.出勤時間だが、乗換駅のこの場所でも宝くじを買う人々は少なくなかった.
宝くじで大当たりが出た後には、訪れる人々が増えるというのが、宝くじを販売する売店職員の話だった. 売店職員 パク・チョンギュ氏(35)は、“今週の宝くじは、期間が一日前に全て売れて、次の週の宝くじを置いてあります”と明らかにした.

ここで会った大学生 キム・ヘギョンさん(21)の趣味は、宝くじこすりだ.小銭でインスタント宝くじを買って、バス停や地下鉄のなかで‘こする’味がたまらないという.
自営業者 ユン・某氏(60)は、“20余年間、高額は一回も当たったことはありませんが、満たされた気分で宝くじを買っています”としながら、“希望を捨てているようで、はずれた宝くじ1千余枚をまだ捨てられずにいます”と話した.
いつもインスタント宝くじ2枚づつだけ買うというキム・ギルリム氏(69 女)は、“息子を皆独立させた後、宝くじを買い始めてから10年になりました”としながら、“家でこっそりとこすっています”と話した.宝くじを手にしっかり握って電車に乗り込むキムさんは期待感に膨らんでいた.
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