2001年1月NEWS PEOPLE 453号

[文化] 大躍進 ミュージカル、今はもう世界へ! 


キム・スンウク (演劇評論家)

 ミュージカルが好況を享受している.公演市場全般が不況で泣き顔を見せているが、ミュージカルだけは例外だ.IMF余波にもかかわらず、大躍進を繰り返し、観客獲得に成功している.
2000年の一年間、ミュージカルに集まった観客は、概略30万名, 市場規模は約150億ウォンと推算される.入場者数だけでも、一般演劇の10倍近くになる数値だ.ブロードウェー ミュージカル ‘オペラ座の怪人’は、何と7ケ月にも渡る長期公演をすることになったのも、このような市場拡大に鼓舞された側面が強い.

最近、国内で公演されたミュージカル レパートリーは、世界的名声を積んだ古典から最新作に至るまで、多種多様だ.
大劇場ミュージカルは少なく見積もっても10余タイトル, 小劇場ミュージカルまで合わせれば、30タイトルに肉迫する.特に、若い観客層の急速な増加に目をつけたミュージカル専門団体が、これまでは見ることができないでいた大作を競って披露しながら角逐戦が熾烈だ.‘RENT’ ‘All That Jazz’ ‘シカゴ’ などの新作がそれだ.

ミュージカルが好況を享受する理由は明白だ.
まず、製作社サイドから見れば、収益性の高い高付加価値産業だ.そのため、一般演劇の10倍, 多くは20倍を超える製作費にもかかわらず、集中的投資の対象として急浮上している.劇団 シンシ ミュージカル カンパニーが製作した‘RENT’と‘シカゴ’が、大ヒットを炸裂させた代表例だ. 2作品とも、8億近い製作費を入れた大作だが、売上額もまた2倍近くあげた.

一方、一般演劇が映像媒体にしつけられた観客に追付いて捕えることができないところから来る反射利益も大きい.
観客の立場では、音楽と踊りに若さの熱情を乗せて運ぶミュージカルこそ、魅惑的なジャンルだ.日常のいらいらを忘れて、華麗なスペクタクルに陶酔するようになるミュージカルの魅惑を厭う理由がない.何より、技量が向上したミュージカル スターたちが、高い水準のステージマナーで五感を楽しませてくれる.ミュージカルは、そのように娯楽性で勝負するジャンルだ.

しかし、急速な成功神話にもかかわらず、克服しなければならない課題も手強い.まず、輸入依存度が過度に高い. 新作はもちろん、過去のヒット作のリバイバル舞台に至るまで、翻訳ミュージカルが続けられている. ‘ドラキュラ’ ‘ブロードウェー 42番街’ ‘ジーザス・クライスト・スーパースター’ ‘お嬢さんとギャングたち’ 等.これらの輸入ミュージカル には、高いロイヤリティを支払っている.
シンシ ミュージカル カンパニーは、昨年、海外作のロイヤリティーだけで3億 以上を支出した.これからは、外国の人気レパートリーを安易に借りて使う慣行は消えるものと見られる. ミュージカル‘キャッツ’国内公演が、国際的著作権紛争にまきこまれたことが端的な事例だ.オリジナル ‘キャッツ’の著作権管理業者である英国 ‘ザ・リアリーユースフルグループ’(RUG)が、公演禁止仮処分申請を出して、劇団 大衆が公演中止をさせられたのである.

それに、何より、ミュージカル専用劇場がない.そのため、莫大な製作費が投入されたブロックバスター級ミュージカルが、一回性で浪費されている.専用劇場もなく、長期公演は夢にも見れない実情で、結局は収支の打算が立てられない.おまけに、翻訳ミュージカルはアンコール公演で観客動員に成功して赤字を逃れたが、創作ミュージカルは劣勢を免れられないでいる.‘ドソルガ’‘ブルーサイゴン’‘デバク’‘オー・ハッピーディ’などが体面を維持した程度だ.こういう問題が山積した中で、一部の商業主義ミュージカルの成功を、ミュージカル市場の底辺拡大だと見ることは性急な判断だ.

海外ミュージカルの輸入規模が拡大しながら、年初には総製作費70億ウォン規模の超大型企画が発表された.ブロードウェー ヒット作‘オペラ座の怪人’を、LGアートセンターで、来る11月から2002年6月まで、7ケ月もの長期連続公演をするという内容だ.
ロイヤリティーだけを払ってきた従来の翻訳ミュージカルとは違い、オリジナルプロダクションのアンドルー・ロイドウェーバーの‘ザ・リアリーユースフルカンパニー’(RUC)が直接製作を担当して、あらゆるスタッフがブロードウェーチームに任されるという. この場合、国内スタッフは韓国公演に参加した現地スタッフとの共同作業で、先進の公演文化とノウハウを学ぶ絶好の機会としなければならない.そうでなければ、複製の水準に留まるしかない.

劇団 ‘ハクジョン’のように、海外の優れたミュージカルを翻案し、長期公演する事例は励みになる.翻案劇の小劇場長期公演を通じて完成度を高めていきながら、蓄積されたノウハウでよりよい 創作ミュージカルを作ることができるためだ.
さる94年、翻案したドイツのミュージカル‘地下鉄1号線’を始め、98年に翻案した英国のミュージカル‘義兄弟’などが、その実験的模型だ.商業性濃厚なブロードウェーミュージカルに馴らされていく観客たちに、小劇場ミュージカルの可能性を絶えず実験して見せながら、韓国的ミュージカルの対案模索を試みた貴重な結果だ.‘ハクジョン’ 代表 キム・ミンギ氏は、これらの翻案ミュージカルで、ブロードウェーで見ることができるミュージカル長期公演時代を開いた.
‘地下鉄1号線’が1千200回以上の長期公演新記録を立てて、‘義兄弟’が、昨年9月から今年の末まで、1年 6ケ月の連続公演を持つ予定だ.

また、元老 劇作家 イ・グンサムが脚本を書いたソウル芸術団の‘デバク’は、私たちの伝統の諧謔とヨーロッパのコメディを接続した独創的ミュージカルだ.
演出を引き受けたドイツ人 ディエトマ・レンツは、韓国人にはあまりも慣れ親しまれていたノルブ伝を、異なる角度から新しく解析して、異色のノルブとフンブを誕生させた.ミュージカルにヨーロッパの広大(註:クァンデ.大道芸人)劇を接続して、面白味と創造性の二兎をつかみ出した事例だ.

韓国ミュージカルは、量的に膨脹しただけでなく、質的にも豊饒になった.
相次いだ海外進出と、ブロードウェー長期公演を期待してもよい.原作の韓国化に成功した‘地下鉄 1号線’は、今年3月にはブロードウェー進出, 11月には日本公演予定だ.
非言語ミュージカル‘ナンタ’は、昨年9月、常設公演場を用意し、外国に呼応して長打を飛ばしている.公演販売市場のエジンバラ国際フェスティバル参加を契機に、米国, 日本等 15ケ国海外市場攻略をねらっている. ‘ナンタ’に続いて、もう一つの打楽パフォーマンス‘ドゥドゥロック’が、韓国文化商品として世界舞台進出を狙っている.3月にニューヨーク ラママ劇場, 8月には英国エジンバラフェスティバルにお目見えする計画だ.
明成皇后もまた、英国と日本公演を推進中だ.95年初演以後、国内外観客40万名を動員した‘明成皇后’は、ニューヨーク リンカーンセンターとロスアンゼルス公演を通じて、韓国ミュージカルの存在を世界に知らせる信号弾の役割をした.

ミュージカルは既に全天候演劇としての位置を占めた. これは、年中終始劇場街を熱しているミュージカル熱風で確認される.
しかし、ブロードウェー式商業主義だけについて行っている途中で、ややもすると、日本公演界のように長い沈滞期に陥りかねない. これは、なによりも軽薄な商業性に基づく.若者達志向の愛と野望, 成功神話を絢爛な音楽と踊りで包装し、人気商品にしているためだ. その上、欧米偏向の盲目性は、芸術の覆いをひっくり返して書いたエログロ愛情物と暴力物に色目を送っていて、憂慮される. また、ミュージカル俳優としての技量を持つことのできない有名タレントを舞台に上げて、観客集めにこれにだけ及々としたことも反省材料にならなければならない.

韓国ミュージカルが世界的競争力を持つためには、まだ不足している点が多い.
何よりブロードウェーヒット作一色のレパートリーが問題だ. 創作劇開発で内実を固めるよりは、海外ミュージカルを二番煎じしているのが現実だ.直輸入されたブロードウェーミュージカルは、私たちの情緒ではない.外国人の夢と幻想に依存した代替娯楽であるだけだ.文化とは、一朝一夕にその成果が現れるものではない.

これから歩みを始めたミュージカルが、世界市場の文化商品として浮上するためには、政府の支援と民間ファンドの投資が必要とされる.何より切実であることは、演劇人の力量蓄積とレパートリー開発, これを花咲かせる芸術魂だ.

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