
“さる6月、米国のある総合病院に一ケ月間研修に行っていました.そこの医師が一日に診察する患者の数は5〜6人.患者1人あたりの診察時間は、30分から1時間程度でした.”ソウル
Y大 大学病院 レジデント過程にある30代前半の医師が、話を終える前に涙を浮かべて首をうな垂れた.
韓国の大多数の総合病院で、医師が担当している入院患者数は、平均20余名.1〜2時間内に回診を終えるためには、患者に
“こんにちは? どうですか”という一言をかけることもギリギリだ.外来患者の場合も同じだ.
一名の医師が診る患者数は、一日90余名.患者は数カ月(ひどいときは1年)間の予約期間を経て、ただの3分程度だけ医師の顔を見ることができて、不満だが、医師たちも、滞る患者たちのために、どうしようもない.そのレジデントの涙は‘本当に頼れる医師’になりたいが、‘とうていそのようにはなれない’韓国
医療社会の現実に対する、若い医師たちの挫折をそのまま表現した.
30代序盤の専門医たちのストライキが続いている.医師免許証を取ったばかりの研修医たちと専門医過程を終えた専任医たちも結集した.彼らは“これ以上しりぞけない”と話す.‘診療権’と‘国民健康権’を守るために、‘完全な医薬分業を実施しなければならない’という、自分たちの意見を曲げないという決議だ.
レジデントたちは‘ストライキ’という劇薬処方を使いながら、自分たちが主張することは、大多数の人々が考えているような、これまでの先輩医師たちが享受してきた経済的な豊饒ではないと話す.もちろん、不透明な未来に対する恐れもあるが、それよりは、週に80〜140時間以上の労働の代価として80万〜150万ウォンの薄給を受けとりながらも、頑張ることができる力になった‘患者に対する気持ちと職業に対する自負心’が、今回の医薬分業と薬事法改正過程で、元に戻しようがない程に崩されたということが大きいらしい.
“なによりも、医師を‘お金を儲けるために薬物を乱用する腕がいい泥棒’だとみる視線が耐えられない”というソウルY大
大学病院のあるレジデントは、“ある患者たちは、医師を‘おじさん’と呼んで処方をしてもらうと、もしかするとひどいことをされるのではないかと疑っています”という、苦しい心情を吐露した.治療のためには必須な、患者と医師の間の信頼が形成されないためだ.
もうひとり別のレジデントは、“8時間手術した後、脱腸になったことがわかった.
脱腸手術を受けて、ベッドに横になっているのに、突然、妊婦が運び込まれてきました.
あいにく、5分で到着できる医師がいなくて、‘腹のそとに飛出してきた腸’を掴んで押し込んで、また手術室に入りました”としながら“自分のからだがどんなに痛くても、患者を見ればなんにも考えずに患者のところに走って行くのが医師なのに、‘医療紛争’の余波なのか、妊婦の家族たちは彼に暖かい感謝の言葉の代りに、毒々しい眼差しを送るだけだった”という.
ソウル K大 大学病院 小児科
レジデントも、“患者たちは医師の気持ちをあまりにもわからない”としながら、話をした.とりわけ暮らし向きが難しい患者が多いK大病院のレジデントたちは‘特診費’を治療費から引いてあげるために、レジデントたちが院務課から課長教授,そしてまた、院務課へと足を運んで努力する、という.
輸血費のために、学生達から献血証を集める努力もする.
彼は“手術費から100万ウォンでも引いてあげるために、レジデントたちが非常に努力するのに、患者たちは、むしろ‘受けなくてもいい金を受け取っている、医師は泥棒’だと誤解する”としながら、困惑している、という.科によって差はあるだろうが、通常は午前6時に出勤して、翌日の午前1〜2時になって、やっと終わる一日の日課.勤務時間が終わった後、手術等で夜通し当直をすることは‘普通’で、夜を明かした次の日も、また明け方6時から正常勤務をしなければならない日々の連続だ.
業務が多い整形外科のあるレジデントは、“少ない睡眠を補充するために、歩きながら眠るのが普通”とし、“1年目の時には、一週間に6時間しか眠ることができなかった”と話す.夜を明かす日が、むしろより多いということだ.年次があがるほど眠ることができる時間は少しずつ増えるが、通常、40代中盤までの医師たちには‘足を伸ばして’眠ることができる日がない.いつ、どこででも、‘呼び出し’があれば患者のところに走って行かなければならないためだ.医療事故に関するストレスもおびただしい.
食事時間も特にない.出勤時間が非常に早いので、朝,昼食は総じて抜く場合が多いようだ.ソウル
S大
大学病院のある外科レジデントは、“一日中空腹でいて、看護婦が食べ残したタマゴの端を食べて、次の手術に入っていくときは惨めな心情になることもある”と話す.家に帰ることができる日も、運が良くても、一週間に一度程度.そんなこんなで、友人たちや周囲の人々とも遠ざかって、‘閉じこもり’とか‘個人主義者’とかという言葉を聞くことは茶飯事だ.
医師は、医科大学 予科過程2年,本科過程4年,医師国家試験,
修錬医任用試験, 修錬医1年,レジデント任用試験,レジデント4年,専門医資格試験,軍医官または公衆保険医39ケ月,専任の1〜2年等、16余年間の投資をしなければならない.K大病院のあるレジデント医師夫婦は、“そのまま普通の人々のように、一度暮らしてみれたら良いのに”としながら、“年齢が40になる時までに、子供を産んで育てることが可能なのかわからない”と話した.小児科レジデントの夫人は、“相当数の女性医師が、過度な業務と労働強度によって流産をしても、休暇はおろか、また手術台の前に立たなければならない”という話を付け加えた.
特に、全体専任のうち、半分程は月給がない無給者で、家族からの経済的補助を受けたり、外部病院の週末応急室アルバイトで生計を維持しているらしい.無給専任医の場合、職場医療保険の恩恵がなく、医師自身の家族が病気になっても、経済的に責任を負うことができないのが実情だ.
事態がこのようになっているので、医師職に魅力を感じて医大を志願した一部のレジデントたちは病院を離れたり、離れるために深刻に考慮中だ.転職を考えたり、移民を考える人々が少なくないらしい.実際に、高試や公認会計士(CPA)の準備をする人々もあるということだ.しかし、大多数のレジデントたちは、‘医師’職をあきらめることができない立場だ.彼らは“若い医師は本当に患者を見てあげたくて、苦しむ人々を治してあげたい”というのが、彼らの真心だと告げる.
患者が死亡すれば‘憂鬱症’にかかることもあるけれど、彼らが‘医師職’をあきらめられない理由は、“現在に対する諦念と、ひょっとするかもしれない未来に対する希望のため”という.30代の年齢で、既に他の職場を求めようとしても遅すぎるという自暴自棄の心情と、ひょっとしたら未来には可能になるのではないかと思う教科書的原則診療,良心診療に対する希望だ.
彼らは“私たちの夢は、現在の歪曲された医療保険制度---原則を守って、医師としての良心で当然な診療をすることが病院赤字の原因になって,保険金不当請求の主犯として烙印を押される現実---と医療伝達体系,誤った医薬分業政策で破られている”としながら、“修錬医,レジデント、そして専任医が要求するのは、政府のレジデント基本給15%引上げ案ではなく、未来に向かう私たちの高貴な希望を守ってくれという絶叫であることをわかって欲しい”と付け加えた.
レジデントを中心にした、若い医師たちの意見は、‘国民と共にある医療政策’等で、一般人と市民団体等の歓迎を受けたこともあった.しかし、最近の医療界と政府間の交渉で、交渉主軸のレジデントたちが‘強硬態度’を曲げないことに対しては、失望の声も高い.ソウル警察庁長官謝罪と公務員問責要求等は、医療界の本質的な問題と関係のない、行き過ぎた行動であるためだ.
イ・ジナ記者 jlee@kdaily.com
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