97年5月号科学東亜

左利き 金氏の 一日 − コウノトリ 家に 招待を受けた きつね

直立を 成し遂げた 人類は 両手の 自由を 得た 瞬間から 右利きと 左利き 二つに 分かれた. この中で 右利きは 絶対 多数を 占めて 社会の 隅々までを 自分らが満足するようにした, これに伴い 少数の 左利きは 障害 でない 障害を 体験している.

左利きにも 朝は くる. 目をこすりこすり 起きて 一晩中 耐えていた 小便をするために 直ちに お手洗へ行った. 便器に向かって 中腰で立って ブリーフの 前を 何度も手が滑る むなしい作業だ. ブリーフは 左に 穴を ださないためだ.

左手が まず 行く 本能的 身振り, 右利きの 世の中に 暮らす 左利きの 哀歓が 始まる 瞬間だ. 何度も むなしい作業を している途中で 気分を害した 金氏は 思い切ってブリーフを 膝まで 下ろして 仕事をした.

左利きだからと 運転免許証発給を 禁ずる法律はない. だが 右利きの 基準で なされた 世の中で 左利きの 自動車 運転は いろいろな点で不便だ. クルマのドアをあけるのには どの 手でも 関係ないけれど 始動は 必ず 右手とするべきだ.

手動変速機の ギアは 右側にある. 相対的に習熟していない, また 力も 弱い 右手でギアを 変速するという ことは なかなか 難しい. 特に一瞬を 争う 危機の 瞬間に 左利きは 右利きより より 危険にならざるをえない.

その上 この 車内で タバコを 吸うことは 並大抵なことではない. なぜなら 灰皿が 右側に装着されているためだ.

重要なことは 皆 右側に


事務室に上がる 階段そばの 事務室で 部長に 会った. 彼が 懐かしいと 手を 差し出す. 金氏は 左手を 差し出したが また 右手で 部長の 手を握った. 握手は 右手とすることという ことに気がついた 瞬間的な 身振り.

事務室に 入っていく前に 廊下に 設置された 自販機で コーヒー 一杯を選んだ. 自販機も 間違いなく 右側に お金を 入れるようになっている. 自販機を作る時 まったく左利きの 存在は 考えたりしなかったのだ.

席に 座って コンピュータを つけた. 現代 科学の 寵児というコンピュータも デザインの 基本は 右利きのためのものだ. 最も 民主的にすべきな 科学の 寵児 コンピュータが 左利きを 無視しながら 机の上に 君臨している.

これは あたかも コウノトリの家に 招待を受けた きつねが 瓶の形の食器を 一緒にして 座った 気分だ. フォークをとって 瓶の中に差し入れて 食べ物を 食べるべきか, でなければ 神経質に席をけって 立ち上がるべきことか, きつねの気持は 落ち着かないことだ.

詳細に 注意深くみろ. モニターや本体のスイッチが 全部 右側にある. 特に キーボードの 場合は 左利きを 完全に 無視していて 'del'でも 'enter' 等 主要 ファンクションキーは 全て右側に ついている. 数字 入力 キーも 右側にある.

マウスも 例外ではない. もちろん 左手で使用することができるけれど こういう場合 右利き用 はさみを 左手に 捉えたように 不便だ. Windows カーソルの 方向が 右側へ 傾いたために 左手で マウスを 捉えれば 作動が 不便なだけでなく 美学的でも 均衡美を失ってしまう. デスクトップ型の コンピュータは フロッピーディスクを 入れる ドライブが常に 右側にある. これも 左利きには不便だ.

朝から トーンを高める 課長の 小言を 浴びてお手洗へ行って 便器に 座った. 水を流すレバーは 常に 右側にある. 座った 姿勢から 左手でそれを 開くことは ほとんど不可能だ. においがしても 一旦 仕事を 終えて立って まわってから 開かなければならない. こういう場合 たとえ 自身の ことでも その においがする 排せつ物を見なければならない不快感は どうしようもない.

机に 座って はさみを 持って 取引先から届いた 手紙を 切る. 過去よりは ちょっとは よくなったこと だが 市中で販売される はさみの 十中八九は 右利き用だ. 左手に はさみを持って 封筒を切るのと、"金兄さん, 左利きなのか!"と 課長が 叫ぶ. すると 職員たちが 動物園の猿を見るように軽蔑のまなざしで笑う.

"うん, 私は 左利きだ, それが どうしたというんだ! この世にはわたしと同じ左利きが 10名中に一人は居るんだがね。 貴重な 別種では ないかね. 米国の 最近の 大統領 4名中3名は 左利きは! ナポレオン, Alexander 大王も 左利きという. いや, ビル ゲイツも 貴方が 嘲る左利きであることを知っているかい、へっ?"と 叫びたかったが, それを どこで 叫ぶ?

右利きの世の中に暮らす悲しみ


昼休みに 職員らが 三々五々 ペアを組んで 近くの食堂に行ったが 金氏は交流しなかった. 左手で箸を使う姿は食べ物を 食べる席でも 話題の範疇を 越えて冷やかしの 対象に発展するためだ. 初期 新入社員の 時期には それでも こらえて過ごしたが, 入社後 何年かが過ぎた いまは 体重調節という 言い訳で 彼らを追って 出ないように なった.

簡単に 終わる 昼休みより より 困惑することは 時々 共に 集まる 夕方会の時間だ. 彼の 左手使いを見たものは皆 一言ずつ 言う. "あ、 金兄さん, 左手で箸を使っても ご飯を 食べられて?" "いや この 友人は 左利きなんだよ うん!" あたかも運のない人を見るように 一言ずつ ある時は 死ぬ 味だ.

彼は いまだに 入社初期の 残酷な酒の席を 記憶している. 左手で 酒を 注いだと怒って目玉が飛び出るような 横っ面を 殴った 無知莫知な上司もあった. 酒が まわっていたならば 会社を 無分別に糾弾し、左利きの代償を払うところだった.

はじめは 理解をとり付けるように話を始めたが ついには 自分らの 左手に 箸を 握って 左利きを 真似する 状況に発展した. "夜中に 妻を 左手で愛撫するか"という 等 耐えられない言葉も むやみに 吐きだした. そのような 欠礼を 酒に酔ったという 言い訳で繰り越す 没常識が 耐え難かった.

道には すでに闇が 敷かれていた. 人々は 各々 理由を 抱いて 家へ帰る. このように 多くの 人々の間に 交流し 歩きながらも なぜか 彼らとは 共にできない 馴染まない 自身の 姿を 考えてみる.

右利きらが 主流をなす 社会で左利きが 生きていくという ことは どんなに 難しいことか. こういう 現実を 宿命として 受け入れて 不平を 一言もなく 黙黙と 生きていく 左利きたち. 左利きの 一日が 徐々に 暮れていく.

〈金ヨンウン('左利き 話' 著者)〉