不況で薄氷の上を歩く小劇場たち.IMF寒波で公演場を訪れる観客の足が遠のきながら、困難な小劇場生活は薄氷を踏んでいるかのようだ.
暗い地下空間, すえたような臭い, 狭苦しくて不便な椅子….
小劇場という言葉で連想するイメージだ.
小劇場は、普通400席未満規模の劇場を 指すのだが、400席という規模は小劇場としてはだいぶ大きい方でほとんどなく,
大学路にある大部分の小劇場は100席前後だ.
“鼻の先で俳優の感情をそのまま感じることができるでしょう.
華やかな大劇場よりも、こういうみずぼらしい小劇場を好む観客たちの中には、かぶりつきに座って、公演俳優たちの‘唾’を浴びるために公演を見るという人もあります.
こういう人々は、小劇場は小さいほど味があると異口同音ですね.”
1月に 2, 3回はこれらの大学路小劇場を訪れるというヨム・ジェヨン氏(25・大学生)の話だ.
大劇場に比べて、接近がやさしくて,
空間の性格上、多様な試みが可能で,
入場料が低廉なこともまた小劇場の長所だ.
芸術の殿堂, 世宗文化会館,
国立中央劇場等、大劇場は公演観覧料が3万5,000〜5万ウォンなのに比べて、小劇場観覧料は大部分が1万2,000〜1万5,000ウォンだ.
7,000ウォンのサランチケット(註:愛のチケット;特別廉価で、大学路共通)を購入すればはるかに低廉になり、小劇場公演文化を大衆化させるのに大きな寄与をしているということは、確実に言える話だ.
ハジェマウル(若い芝居批評グループ)の全ミョンヒ企画チーム長は、大劇場に比べてとても低廉な入場料にもかかわらず、IMF以後に大幅に減った観客数で、深刻な財政難を体験している劇団の難しさをこのように話す.
“大学路小劇場の場合、一日の貸館料が普通 20万〜40万ウォンです.
この近辺で最も貸館料が安いと噂される恵化洞 1番地も一日9万ウォン程です.
一日の貸館料がこれ程なら、事実、劇団側としては最近みたいな不況に相当な負担だが、元来、この町内(大学路)が非常に地価が高い遊興街であったためにしかたがないのですよ.
演劇の町だとはっきりと認識されたここから追い出されないためには、なんとしてでも高い貸館料を支払わざるをえないのが劇団側の現実でしょう.”小劇場生活が非常にむずかしく見える劇団に貸館するよりは、いっそその空間でカフェや飲食店を運営するほうが劇場主にとってははるかに利益になる.
したがって、小劇場を運営すること自体が劇場主の立場で見れば、相当な使命感からでてきたことだと言える.
事実上休館あるいは主人が替る小劇場が続出、劇場数が減れば劇団はますます立地条件が悪くなることは火を見るより明らかなことだ.
実際にIMF以前は30〜40余に達するソウル市内大学路小劇場(全国では130余)の一部が難しい財政状態を耐えられず、1年間で事実上休館状態になったり他のオーナーを探して移った所が生じた.
今夏、ソンジャ小劇場を劇団モクファが長期賃貸形式で引き受けたかと思えば、チュンドル1とチュンドル
2 の2ケ所だったチュンドル小劇場も今は 一ケ所だけが運営中だ.
光化門 セシル劇場も、IMFによる財政難によって、初めに少しの間休館したが、5月から大学路に場所を移して再開館した状態だ.
小劇場生活は作品を上演する劇団から入る貸館料収入に依存するのに、貸館申請をする劇団が明確に減っているうえに、貸館をして公演をしても、最近のように萎縮した観客の消費心理を解くに値する興行作を出す場合は稀だ.
賃料は、(日)単位から普通は(月)単位で貸館するのだが、貸館料が昨年より低くならずに、凍結された水準だと貸館がよくできない劇場が多い.
貸館できない小劇場は、一時的に休業してこういう状態が長期化すれば、劇場主は、成人演劇を上映するエロ劇団の誘惑を受けたり、カフェやビヤホールに業種転換を考慮するようになる.
エロ劇場が登場したのは、IMF開始の何年か前からだという.
郊外で90年代初頭から行われてきた成人演劇が94年に初めてこの大学路に専用劇場を進出して、現在では大学路だけでも
7〜10余か所程に増えた.
生活が難しくなり、成人演劇専用劇場を必要とする劇団主の要請を無視できないというのが劇場主側の立場でもある.
一部の劇場主は、演劇界不況が長期化しているなかで劇場を遊興業所に売るか、直接酒場に改造することも考慮中だ.
大衆歌手等のコンサートがぐんと増えたことも、小劇場不況ゆえに生じた現象中の一つだ.
過去、大学路で開かれたコンサートは一ケ月に1〜2回にしかならなかったが、最近はライブ劇場のようなコンサート専用劇場を除くと、一ケ月に5〜6回はあちらこちらでコンサートが開かれている.
劇団に貸すより、大衆歌手のコンサートを誘致するほうが劇場主にとっては貸館料を受け取れることができるより容易な方法であるためだ.
最も活発に大衆歌手コンサートを開いている所のひとつが大学路チュンドル小劇場だ.
劇場関係者は“12月の一ケ月間だけでも 5チームの大衆歌手のコンサート計画がある.
普通、一チームが貸館する期間は 2〜3日程度で,
公演がない日は、次のチームが公演場にきて演習して行く”と話をする.
チュンドル小劇場の場合 12月にロック音楽だけを公演する‘ロック祝祭’も行った.
生き残りのためにはなんでもする劇団たちも難しい財政難を克服するために、いろいろ自己救済策を花咲かせている.
まず観客を探しに出るマインドが積極的に変わった.
公演を劇場側の事情によって定めて、その時間に合う観客だけを相手にする消極的な経営は効果がそれほどない.
それで公演時間を観客の生活リズムに合せた.
平日は午後7時30分1回, 週末は午後4時30分, 7時30分の2回に固定させていた小劇場の公演時間を平日昼公演まで作って、主婦観客を引き込んで,
週末も土曜日と日曜日の公演時間を違うようにした.
平日も火〜木曜日と週末前日の金曜日の公演時間が別になっている所も多い.
週末の昼公演は、過去の4時台から3時台に大きく調整した.
主要観客層である主婦等の便宜のためだ.
4時開始の公演に入場し、2時間程度の芝居を見て家に帰れば夕方で、時間がギリギリだという劇場側の計算ででてきたことだ.
青少年の観客が多い劇団アリランは、季節の休みの開始前には、週末に3回公演して学生達をたくさん引き込む戦略を立てた.
夜間自主学習で平日にこれない青少年を週末に集めようという計画だ.
日曜日と公休日最後の公演を午後7時30分から午後6時に操り上げた小劇場等も多い.
翌日の月曜日の出勤への支障を気にする観客を配慮したものだ.
また、内容面でもシリアスなことを忌避する世相のこの1年、大学路小劇場では真摯な正劇より軽いコメデイ物が主流を占めるようになり、いっそのことIMFを正面から扱った芝居が洪水のように溢れ出てIMF観客を集めた.
不渡り中小企業社長がアパート工事現場で自殺騒動を繰り広げる内容の‘金社長を揺さぶらない言葉’(公演企画)は、特定時間をIMF特別公演という名前で行い、5,000ウォンでみることができるようにして好評を受けた.
演出と脚本を引き受けたオム・インヒ氏は“私たちの公演を見ようと来る人々の大部分が本人や親戚,
または周辺の知っている人が失職したり、揺れる職場問題で悩んだ経験を持っている境遇です.
なによりもIMF以後、難しい社会現実を反映した内容だと、観客の反応が良かった.”
と話した.
劇団セミの創立10周年作品だった ‘メンタイバク’
やはり名誉退職させられ、再就職に,
創業に熱心に飛び回るけれどうまくいかないという内容を込めて,
大卒失業者問題で、実力より学縁を重視する社会風土を批判した‘カンガルー君’もIMF以前にはみることができなかった芝居だ.
劇団漢江が9月に上演した‘断膓曲’やはり失業難を絶えられなくて自殺した30台の日雇い労働者と地下室の部屋に息子の死体を引き込んで9日も過ごした老母の実話を素材にした作品だ.
毎週月曜日の公演がない小劇場を借りて無料公演をやって話題になった‘チェーホフフェスティバル’もやはり、演劇界不況を乗り切りたいという自己救済策だった.
“まず
粘ろう”…劇団合併・長期延長公演が難しくなった小劇場経営を改善するために、いくつもの劇団が力を合わせる場合も生まれた.
劇団漢江は、9月劇団オヌルと女性文化芸術企画の2ケ所と力を合わせ、小劇場を共に運営しているかと思えば、劇団ミンジュン,
劇団広場,
劇団大衆は、製作費と経常費を減らすために劇団ミンジュン・
広場・大衆を合わせて一つのものとして発足した.
演劇界にも本格的な合併旋風がまき起こったのである.
そうかと思えば、大学路小劇場と小劇団は長期延長公演を好む傾向を見せている.
とにかく一度は興行成績が良かった作品を粘り強く整えて続けていき、延長公演に入っていくことだ.
このようになれば、初期投資額で継続できるうえ、当分は興行が保障されるので収入を増やすことができるという計算だ.
サヌリムの‘ゴトーを待ちながら’や ハクジョンの‘地下鉄1号線’,‘義兄弟
’,‘辰年の上に犬年’などがIMF以後にもロングランした作品に選ばれる.
劇団ハクジョンのミュージカル‘義兄弟’は、6・25避難時期から70年代維新末までを背景に、双子の兄弟の異なった成長過程を通じて、私達の社会の矛盾を測る内容で4ケ月目の延長公演になる程に反応が良い.
ソンジャ小劇場で来年1月初めまで延長を繰り返している劇団モクファの‘四人は横断歩道を渡らない’
これもやはり 80年代世代と90年代世代間の葛藤と理解という主題を笑いで描いて大きな反応を得ている.
幕が上がる前の楽屋控え室を背景に、俳優たちの哀歓をコミカルに描く‘マジックタイム’もやはりウィットある演出で観客に腹を抱えて大笑いさせる.この作品もやはり来年1月初めまで延長公演する.
劇団ミチュは、毎年マダンノリ(広場公演)公演をレパートリーとして、固定収入を確保しつつ、翌年の作品を上げることができる与件を用意する.
ひたすら純粋芸術を固守し、固定観客を維持する劇場もある.
芝居のメッカと呼ばれる大学路で固有の色合いを放っている公演場のひとつとして選ばれる‘演劇実験室
恵化洞 1番地’は60席規模の小劇場中でも特に小さな劇場だが、‘商業性排除’‘固定観念拒否’という色合いを確実に保っている劇場中の一つだ.
93年 金アラ 柳グンヘ 朴チャンビン 李ビョンフン 李ユンテク
チェ・スンフン 黄ドングン等、演劇界を代表する7名の40代の演出家が集まり、同人作業を通じて開館した所だ.
いまは大学路を中心に活動してきた30台の劇団代表及び演出家5人(劇団晴雨の金グァンボ,
劇団76団のパク・グンヒョン, 劇団表現と想像の手 ジョン・ウ,劇団ペクスグァンブのイ・ソンヨル,
劇団小さな神話の崔ヨンフン)がこの小劇場を守っている.
各自が独特の考えを持つが、多様な実験精神に応える空間として運営するという基本趣旨に意味を共にする彼らは、さる9月2日から11月8日まで‘98恵化洞
1番地フェスティバル’という名前で 5作品をリレイ公演することによって正統演劇を生かす小集団文化運動という好評を受けもした.
また、さる10日から劇団小さな神話は、私たちの演劇だけを、という一環で創作劇二編を公演しているのだが、公演前に観客代表団を選定,
二公演を評価してもらって、二作品中の完成度が高いと評価を受けた作品を修正・補完して、来年にまた舞台に上げるという野心に充ちた計画を持っている.
小劇場の実験精神はこれに終わらない.
さる11月、弘大入口にあった劇場魔女が大学路に移転し、再開した劇場‘今日・漢江・魔女’では、11月27日深夜12時に‘魔女キャバレー
’という奇異な名前の行事を開いた.
この行事では、ダンスパーティーが基本で、ロックカフェのように酒を飮んで騒いで遊ぶが、演劇
映画 マイム 魔術 パフォーマンス
等、諸々の文化プログラムを鑑賞することができた.
‘公演は俳優が,
観覧は観客が’という固定観念から脱皮し、既存の小劇場公演と全く別の試みだという評価を受けた.
今回の行事を企画した女性文化芸術企画の安ミラ氏(企画広報)は“あまりにも実験的で、観客の反応を予測することができなかったので、ふたを開けてみるまで不安でしたよ.
進歩的な若い観客の反応が非常に熱狂的なので、今回の行事を単発性のものとしてで終わらせないで、12月末くらいになったらもう一度開きます”と話した.
小劇場が主導する、こういう実験文化は大学路が中心だが、今は他の地域にも広まっている.
弘大前駐車場路地に入った‘シアター
ゼロ’と新沙洞シネハウスの向い側に開館した‘PG & MUSE’
も既存の小劇場とは異なる運営方式で観客を引っ張っている.
さる11月22日に開館した‘シアター
ゼロ’は、小劇場といえば普通思い浮かぶ地下空間を脱出した.
100〜150人を同時に受け入れることができる規模で、明るい光がよく入る地上4階に位置していて、小劇場の薄暗いイメージから完全に脱け出た.
今後、ここで開かれる企画公演は、歪曲された性の本質をつく作業で一貫する計画だ.
正しい性文化を先導するという趣旨で、新しい実験空間になる展望だ.
代表
沈チョルジョン氏は“公演を観覧する所という固定観念から抜け出し、劇場を討論の場として作っていく.こちらで公演を見る時は、敢えて始めから終わりまで席を立たずに座っている必要がない.
今後、演劇 舞踊 パフォーマンス コンサート
等、固定ジャンルに限定せずに、実験性のある公演ならばなんでも上演する”と明らかにした.
‘シアター
ゼロ’は、大学路に比べて相対的に脆弱な弘大前の小劇場文化のなかで新しい求心点になることができるようだ.
さる12月1日に開館した‘PG & MUSE’は、ミュージカル専用レストラン.
食事もでき、公演も見られる劇場式レストランというようなものだ.
小劇場文化が公演文化を主導すると決めつけることはないが、多くの劇団が小劇場という舞台を借りて個性のある声を出しており、この声たちが集まって公演文化を大衆化させるのに寄与していることは明らかだ.
IMF以後、現実は困難であるが、制度の中に閉じ込められた大劇場とは違い、小劇場は‘自由’という武器を持っているためだ.
--------------------------------------------------------------------------
Comments or Questions to Webmaster@mk.co.kr
Copyright (c)1996 Maeil Business Newspaper Co., Ltd. All Right Reserved.
|