日本映画の競争力? 全くないね− 北野 武
インタビュー
-韓国人は
ビートたけし、貴方に関して知りません. 若干説明をしてください.
=18年前に、日本芸能界には漫才ブームが起きた.
そして、五組程のコンビが今のアイドルスターのように人気を呼んだんだ.
3, 4年ほど過ぎて、コンビが割れて各自で活動し始めることになった.
その後、ショー番組の司会者とコメディアンとして活動している途中で映画を撮ったのに,
コメディアンのイメージが強くてうまくいかなかった.
ところが、淀川長治という、とても有名な評論家が<その夏
最も静かな海>を見て、途方もない好評をしてくれて,
認められるようになった. いまは、ビートたけしであり, 北野
武でもある.
-映画を作る時、コメディアンイメージのために難しくはありませんでしたか.
=基本的に5編以上は作るべきだね.
それまでは、コメディアンイメージが付いてまわるから.
-日本の人々は貴方を“エンターテイメントの神”だと称えています.
=死んで、神になりそうなことはあったけどね.
-貴方が天才だと思うのですか.
=以前、人々が私を天才だと呼ぶように,何度も作戦を試みたけど、いつも失敗した.
例えば、夜中に仲間たちとせっせと通うような、むだなことを多くした.
-1週間に何と9個ものTVプログラムにレギュラー出演するというのは,
人間の能力で可能なことなのですか.
=プロの熱意と誠意がある、他の人の場合は知らないけど,
私のように何も考えないでする人はできるね.
プロダクションという、怖い存在が後に控えているんだもの.
引きずられてさせられるままやって, 帰ってきて, またやる.
-貴方に最も影響を与えた人はだれですか.
=うちはとても貧乏だったのに、親父は思わしくなかったし、お袋は教育熱がとても高い方だった.
私は町内のガキ大将だったのに、お袋が怖くて、いつもなんとかだまして遊びに出られるように,
という工夫をした. お袋の目を避けて、お金も持ち出してたから,
うまくいけば驚くべき詐欺師になることができただろうね.
小さい時から野球が好きだった.
その頃は、サッカーや他のスポーツはなかったし,
ひたすら野球だけだった. 野球, ボクシング,
学校が脱出口だったので、真剣に野球選手になろうと考えたりもした.
だが、お袋は野球グローブを買ってくれなかった.
それで、私は野球グローブをイチョウの樹の下にビニールに包んで埋めたんだ.
ある日、土を掘り返してみると、グローブは消えていて,
参考書が出てきたんだ. もう一度は、名前も変えて,
ボクシングジムに通った.
その時も、お袋は頭が悪くなるからと無理矢理やめさせた.
それであきらめた. いまはお袋に有難いと思っているよ.
私にはいつもお袋の存在が大きい.
-結局、お母さんの教育方式は失敗したのでは.
=大学を中退した時は、泣き叫ばれた.
いまは、私が一番立派だと言ってるけどね.
たぶん、金をあげられるようになってからのようだ.
-オートバイ事故は飲酒運転のためというのですか.
=道徳よりは、女と酒の力が強いから.
-オートバイ事故が貴方にどんな変化を 与えましたか.
=何も変わらないと思う.
あんなに大きな事故を体験しても変わらなかったので,
それが問題ではないか? よくわからない.
-貴方にとっては家族とはどんな意味があるのですか.
=うーん.他人がみていなければ、捨てたい.
-娘の洋子の歌手デビューも助ける等、娘には手厚くしたのに.
=最近、日本では遺書を書くことが大流行している.
それを見ると、生きている間に良くしてやらなければ、と思う.
-貴方にとって女性とは、どんな意味ですか.
=創造する人にとって、女とは幸福な存在だ.
時にトラブルの原因になることもあるけれど,
かと言ってホモになることもできない.
-ビートたけしと北野 武の差は何ですか.
=別にないけど. ビートたけしは、まだ肩の力が抜けていなかった.
-韓国の日本文化開放には関心がありますか.
=とにかく、開放は良いことだと思う.
だが、日本の大衆文化にも良いものと悪いものとの両方がある.
韓国の人たちもそこにだまされず、よく判断することを望みます.
-韓国の日本映画 1号の感想は.
=とてもうれしくて名誉なことだ.
コメディアンとしては、その話をギャグのネタにすることも出来るから良いね.
-日本映画が韓国である程度の人気を呼ぶと見ますか.
=釜山での反応は好意的だった. だが、映画祭だからそうだった.
日本映画の競争力? 全くないね.
-釜山映画祭にきたときに, どんな印象を受けましたか.
=反応がすごく良かった. 日本よりも. とても有難いですよ.
日本の観客はそうでないのに,
韓国の観客は気楽に見てくれたようだ.
-<HANA-BI>は、韓国の観客がどんな反応を見せると思いますか.
=<HANA-BI>は, 私の7番目の映画だ. 6番目まではすべて興行に失敗した.
日本では、子供達が皆、ハリウッド映画にどっぷりと漬かっていて、寡黙で静的に流れる映画には慣れていない.
韓国をよくは知らないけれど、似てはいないかと思う.
アメリカ的な映画もあれば,
静的な映画もあるということを我慢して見てくれることを願う.
-<HANA-BI>というタイトルは、どのように付けたのですか.
ハイフォンの意味はまた何ですか.
=全て、プロデューサーと広報担当者の決定だ. 私は <武の7番目の映画>にしようと言ったけど.
皆黙ってしまったよ. <HANA-BI>とは花火遊びの意味だ.
それで、漢字ひとつずつ分ければ、ひとつは花とジェントルさ,
火は暴力という意味になる.
-貴方は映画では常時沈黙で一貫しています. 反対に、TVでは途方もなく話を多くするのに.
=映画とは、10枚のスチール写真をそのままならべた時に良いと感じられれば,
それが最高だ. 音楽もなしで.
けれども、映画をそうさせることはできない,
それでも引続き排除していくと、シンプルになる.
-<HANA-BI>は銃声が鳴ると,
画面上に赤い染料がまかれる等、サウンドと場面の転換技巧がとても飛び抜けていますね.
=映画の歴史もこれで100年だ. 全てのものは進化する. 会話も抽象化,
キュービズム等で発展してきた. 映画も進化しなければならない.
むかしの手法では、これ以上通じないよ. したいことは多いけれど,
それを全てすれば、あまりにも難解になる.
だが、できるだけの冒険はしたい.
-<HANA-BI>は、フラッシュバックがたいそう印象的です.
=はじめは順番通りに撮っていた.
ところが、あまりおもしろくなくて、一度試してみたんだ.
個人的には、フラッシュバックが大好きだ.
ところが、フラッシュバックを入れて編集すると、意見が交錯した.
映画を見ても、内容がどのようなものなのかわからないという人が多かった.
もっと激しい場合もあったのに,
終りの画面で、二発の銃声を二人の刑事に射った銃声だとして、ハッピーエンドだと主張する人もあった.
-銀行強盗の場面を、監視カメラによるリアリティーを生かしたというのですが.
どんな意味でしたか.
=事実、銀行強盗を直接見たという人はほとんどいない.
銀行強盗の固定観念は、映画やTVニュースに登場する監視カメラを通じたものだ.
監視カメラが、まさに、人々が接する銀行強盗の実際状況だ.
-ところが、モニターのそとでは反対にコミカルな状況が展開しますね.
=悲しみとは、観察者が行えば、コミカルなものだ.
鼻をかむ時、鼻水がたくさん出てくれば, 人々は笑う.
そのように、日常には残酷さとコミカルさの両面性がある.
意図的だった.
-なんの言葉も発しなかった夫人が、最後に、ありがとう,
すまないと一言いう. 反転を意図したものですか.
=解釈はいろいろにできる. 私は元来メッセージが好きじゃない.
話を聞く時は, その人の階層や状況により違って聞こえるはずだ.
仮に、あたたかいと感じられるならば、自分の状況がそういうことだ.
-動物の顔に花を置き換えた絵は、どんな意味ですか.

=オートバイ事故に遭ってしまって,
あまり動けなくなって、絵を描くようになった.
絵を描いたことがないから画家のようにストレートに描くことができなくて、ひまわりを描き始めても、終わりまで描くことができなかった.
それで、ライオンを置き換えて、ライオンもひまわりも同じようにひとまとめにしたら、面白かったんだ.
-いろいろなインタビューで、<HANA-BI>に登場する絵にはなんの意味もないと主張していますが,
本当に意味がないのですか.
=はじめから意図したわけでもなく、そうなった.
どうにもならないから、いたずらをして遊んだ絵だ.
そして、あんなにちらっとだけ見せたことも、じっくり見せればばれてしまうからだよ.
-久石 譲の音楽がとても印象的です.
仲が良くないという話もあったのに.
=映画を作るのは私で、音楽を作るのは久石 譲だ.
彼が音楽を作って持ってくれば、私はそれで良い悪いを言う. 私と久石
譲があまりにも近づけば、率直に話すことができないから、わざわざ距離を置きながら仕事をするんだ.
-<HANA-BI>を 貴方が直接説明するならば.
=私は映画にメッセージを込めようとはしない.
それでも、伝えたいことはある. 各自が自由に受け入れれば良い.
自分の生活と感情によって. 3年後にまた見れば、考えが変わってもいるから、がまんしてでもで見てほしい.
-貴方の映画は、たいていヤクザが登場して, 暴力が主に登場する.
暴力の意味とは何か.
=暴力が主ではなく、死が最も大きいテーマだ.
死に最も近いのが暴力で, そこに最も近いのが、ヤクザと刑事だ.
振り子を動かせば、片方に強く振るほど, 他の方向により強く動く.
それと同じことだ. 死に対して深く考える人が,
より一層熱烈に生を生きていくんだ.
だが、今は他の試みをしてみたい.
-貴方の映画の主人公は、どこか、不満に満ちていて,
それが暴力として表出され、死に向けて突進しているようです.
それで、あたかも死が暴力の必然的な結末のように感じられるのです.
=結論的に話すならば、死がテーマだ.
死には、逃げようという死と、指向する死がある.
私はそれを描いた. 主人公も社会に対する不満でなく,
社会で孤立した自分自身に対する不満だ.
-デビュー作から貴方の映画は虚無的な 雰囲気でした.
貴方の世界観自体が、そのように悲観的なのですか.
=アジア各国のどこも一緒だけど、戦争以後、皆が米国民主主義の影響を受けた.
その過程で本物の姿をなくした.
戦前には、教育をする時にも心があった.
ところが、いまはそのようなことがない.
残ったものはなんにもない.
-それなら、今の日本の若い世代を悲観的に見るのですか.
=今の日本の若い世代は大嫌いだよ.
-理由は.
=品がない.
-多くの評論家たちが、貴方の映画は日本の伝統的な美学を忠実に継承していると言う.
それをどのように考えますか.
=基本的に、個人が責任を負うことができるということ, だと考える.
戦後、誰でも問題が起きると、社会理由,
国理由として責任を転嫁した. それより、問題が生じたら、父母,
息子たち、すなわち自分自身が責任を負わなければならない.
-貴方の映画では、常時、海の前でなにか重要なことが行われて,
<その夏 最も静かな海>では、海が主人公といっても良いくらいです.
貴方にとって海とは.
=個人的にものすごく好きだ.
海に飛込んで泳ぐわけではなく、海の周辺を歩いたり、眺めることが.
地上のあらゆる存在は海で発生した.
人間も海で始まって、陸地で進化したんだ.
それで、人が海へ行くというのは, 原点へ行くという考えだ.
そして、なにかわからない、妙な感じもある.
いつも、山よりは海を訪れる. 映画では癖のようなものだね.
-<ソナチネ>や <HANA-BI>では、死を目前に控えて、人形遊びやカード等、遊びに余念がありません.
=人間はどんな瞬間にも無意識的に余裕を持つものだ.
死刑囚も瞬間的に笑みを帯びるという.
オートバイ事故に遭って、明日かあさってに死ぬかもしれないという話を聞いても、いたずらをして遊んで,
笑ってしまう瞬間があった. 人間とは、そんなものだよ.
-<3-4X10月>や<ソナチネ>を見ると、女性はかすめて過ぎ行く存在で登場します.
だが、<HANA-BI>では、女性の比重がはるかに大きくなりました.
もしや、オートバイ事故の余波でしょうか.
=事故の影響ではなく、評論家の影響だよ.
たけしは女を描かないと言う言葉が非常に多くて、今回は丹念に描くべきだと考えた.
-映画について話す貴方と,
自分自身について話す貴方は随分違います. それが、"ビート"と"北野"の差のようなもので,
誰かが、貴方が
`監督モードに入っていくときはたいそう真摯になる・・・と言っていました.
=意図的というよりは、映画の取材をすると思えば、"北野"が自然に出てきて,
俳優のときには"ビート"が出てきているようだ.
-最近撮った映画はどんな映画ですか.
=<菊次郎の夏>という 映画だ.
おばあさんとただ二人で暮らす少女がいる.
ある日、生母が生きているという噂を聞いて,
あるおじさんと一緒に訪ねるという話だ. とてもクラシックな話だ.
あたかもチャイコフスキーの交響曲に挑戦する感じだ.
-貴方の助監督だった清水浩が<自殺観光バス(註:原題"生きない")>を作りました.
最近の若い監督たちの映画を見て、どう思いますか.
=まだ安心している. 当分追い越される心配はないからね.
-90年代の代表的なシネアーティストで、同時代の日本映画と監督をどのように見ますか.
=米国映画の影響を受けて、予算もないくせにスケールが大きい映画ばかりを考えている.
近頃は少しずつそこから抜け出してきているけど、たぶん時間がかかるだろうね.
注目している監督は、別にない. 黒沢明,
小津安次郎以後、誰も彼らを追越せなかった.
これは、致命的な事実だ.
-若者達に一言.
=誰でもなりたいものがあって, したい仕事があるものだ.
だけど、ただ一生懸命に生きてきたら、ある日サッカー選手になっていた、というようなことの方がよりよいではないかと思うよ.
東京=金ジョンソク 記者
--------------------------------------------------------------------------
Copyright 1995-1998 ハンギョレ新聞社
webmast@news.hani.co.kr
.
.
|