98年10月
Cine21
軍国主義復活? 日本漫画 ジャンル 傑作選 15 - 軍事漫画 <沈黙の艦隊> |
閉鎖空間中の暴動, 大海に浮かんだ戦艦の反乱. それはアクションスリラーにうってつけの素材だ. 映画や漫画には. 海の中の艦船は、逃げる所もなく、助けを要請する所もない、孤立無援の島と同じであるため, その謀略秩序は苛酷で、また、秩序が崩れる時は、一瞬のうちに無法状態になりかねない. それなら、潜水艦の場合はどうなのか? 宇宙の神秘ほどにも明らかになっていないという深海の状況は、途方もない水圧と稀薄な空気のために、船よりも一層極端なものにならざるをえない. かわぐち かいじの 大作 <沈黙の艦隊>は、潜水艦 1隻の反乱を描いた. その上、これは艦船内部の反乱ではなく、全世界を相手にした超大型の反乱である. 潜水艦の反乱, 世界最小の独立国 時は1988年. ロシアにはペレストロイカの波が湧き起こり、ベルリンの壁が崩れる日も遠くなかった. 絶対友好国も、絶対敵対国も、あるいは絶対戦線も徐々にぼやけつつある. そのような頃, 日本は金を代価に技術を提携して米国と協力して、核潜水艦 1隻を完成させる. 名前は、海のコウモリという意味のシーバット(Sea Bat). この潜水艦にはエリート海軍司令官 海江田とアメリカ人ライオンが共同指揮官として搭乗した. しかし、このシーバットは順調に海に浮かぶのかと思われたが、轟音と共に消えてしまう. すべての船員が乗ったままで. 一方、海江田と同じく嘱望を受ける海軍エリートで、性格が火のような、原則を重要視する深町は、なにか異常なものを感じて、独自に事件調査に着手する. シーバットは消えたのでも、沈没したのでもなかった. 艦長 海江田は緻密な計画を立てて、70余人の船員を率いて世界最小の独立国を宣言したのである.(註:元々、海江田は"やまなみ"という潜水艦の艦長であったが、日米が秘密裏に建造したシーバットへ海江田たち乗員を移すために仕組まれたのが"やまなみ"壊沈事件である、というのが本来のストーリー.このコラムの著者は思い違いをしているようだ) 独立国の名前は `やまと'、 まさに第2次世界大戦時に米軍により沈没させられた日本の戦艦名をそのまま取ったのである. やまとが願うところはこうだ. 核兵器と大規模軍事力を保有したという理由だけでは強大国だとはいえず, 軍事力が一国の力を意味する時期は過ぎた, 海はひとつで世界もひとつだ, 皆が一国家のように過ごすことができるはずだ. こういう途方もない宣言をして現れた やまとはたった1隻の潜水艦でしかないが, 既に米国, ロシア(当時 ソ連), 日本を威嚇する、一つの強力な権力として力を発揮するようになる. これに対して、米国, 日本, ロシア等は、やまとの動向をめぐった世界戦線の変化と、そこで左右される自分たちの利益を天秤で量って駆け引きをして, ついにはやまとを無視出来ずに現実勢力として認めたまま、戦いと交渉を続ける. これまでの世界の秩序と戦線を、再構築する、とても新しい形態の国家が登場することになる. 詳細な専門知識, 世界スーパーパワーの力学関係 日本漫画の巨匠中のひとりである かわぐち かいじが昨年ついに9年間の連載を終えて、日本で全32巻で完結した<沈黙の艦隊>は本格軍事漫画だ(似た種類だが、戦争漫画と軍事漫画は違う. 戦争漫画が戦線の推移と勢力の動きを主に描写するが、軍事漫画は専門的な軍事・武器の知識を一度に扱う. 例を上げれば, 李賢世の <南伐>は戦争漫画で、軍事漫画ではない). <沈黙の艦隊>は、まず, 主人公たちが使用する武器、ここでは潜水艦に関する該博な知識を網羅している. `速い風'でなく `何ノットの風', `横へ回る'でなく `面舵をとる', `袋のねずみ'ではなく `フローティング アンテナでスクリューを捉えた' 等等. こういう詳細な専門知識は、この分野に対してちょっとは知っている人には信憑性と面白味を, 知らない人々にも、なにか緊張感と好奇心をそそらせる. だが、こういう武器の説明程度は、実はなんでもない. まさに興味津々で説得力のあることは、軍隊体系, 軍隊を動かす外部命令体系構造, これらの事を決める外部勢力と世界スーパーパワー等の力学関係構造を見せるという点だ. これは、全体の話に緊迫感と事実性を一層高める効果がある. だが、<沈黙の 艦隊>が興味深いのは、このように緊迫感のある、ひとりの傑出した軍人の反乱を描いたという点だけではない. 本当に目を引くのは、まさに, やまとの野心そのものだ. やまとの宣言, すなわち "核兵器と大規模軍事力を保有したという理由だけで強大国だとはいえない, 軍事力が一国の力を意味する時期は過ぎた, 海はひとつで、世界もひとつだ, 皆で一国家”という宣言は、裏返せば, 経済大国になっても合法的で正当な, すなわち`侵略可能な'軍隊は持てない日本の境遇を恨めしく感じていだくようになった反動的な希望ではないか. われわれ日本も核兵器を持つべきだし、これ以上は軍事強大国たちによって思うままにできず、われわれ日本が世界秩序の中心であり、その軸になるのだということではないだろうか. 特に、`世界はひとつで、皆で一国家'という部分は極めて平和的で純粋な宣言のようでありながらも、実は裏返せば、最も軍国主義的でファッショ的な宣言である. やまとの軍国主義的野心 より一層おもしろいことは、日本が徹底的に強大国の犠牲の羊であり、第2次大戦の哀れな被害者として描写されたという点と, 最近も軍事強大国たちから蔑視を受けているその理由は、正式な軍隊がないためだという主張をとても效果的に描写している点だ. 誰が描いても、自分の国を含めた戦争軍事漫画はスポーツ漫画と同じで、一方的に一方の肩を持つように誘導して、結局はおおげさな感情的結論に追い込むことが普通だ. 一例で<南伐> もやはり例外ではない. だが、もっともらしく装いをして洗練された描写のこの漫画は、その吸引力と魅力程にものすごいイデオロギーを知らず知らずもたらせる能力さえもっている. かわぐち かいじ 本人も <コミックテック>とのインタビューで明らかにしたごとく, 人間の心理と内面の移り変わりを表現したい作家であり卓越したストーリーテラーだ. <沈黙の艦隊>でも、無条件に`やまと'と`反やまと'ではなく, 微妙な変化に よって駆け引きする権力の推移や、また、原則を追って行動する、他の部類の人間たちの様態などを多様に描き出す. まさに、 そのために<沈黙の艦隊>の覇権主義は、より一層説得力があり、それでより一層恐れるだけのことはある. オ・ウンハ/ 客員記者 Copyright 1995-1998 ハンギョレ新聞社 webmast@news.hani.co.kr
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