性堕落防止の心理的マジノ線…
財産分割請求権だけでも実效性は充分
夫と別居して5年になる40代序盤の女性
李某さんは、突然、警察から出頭要求を受けた.
姦通嫌疑についての調査が理由であった.
戸籍整理だけはしていなかったが、既に離婚届けに印鑑まで押してあった状態であった.
各自、別に会う異性まであった.
小さい店を運営する李さんが財産を少し貯めていたのだが、夫がお金欲しさに告訴をしたのだ.
李さんは2ヶ月前に拘束されて、夫は 1億ウォンを要求した.
“卑劣な復讐心を満足させる道具”
さる94年、刑法改正時に廃止論議沸騰があったが、女性界の反対に直面して部分改正に終わった姦通罪は、相変らず個人の私生活に国家権力が介入する代表的な装置として残っている.
さらに女性の権益を保護するという法の趣旨とは反対に、女性にとってむしろ鎖として作用する面が現れることもある.
新しい世紀がくる前に、20世紀の遺物の姦通罪規定について、もう一度考えてみようという指摘が起きている.
(写真/法的処罰対象?
妻帯者である作家と未婚女性記者の愛を描いた映画 <悲惨な愛>の一場面.)

姦通罪規定が実際に利用されるのは、離婚訴訟で相手方の不貞行為を容易に立証するための場合が多い.
姦通した配偶者が嫌疑を否認して離婚を拒否した時に告訴をすれば、捜査機関が出てきて調査をして、その結論が離婚訴訟で直ちに証拠として採用されることができるためだ.
拘束までされれば、示談金を相当額引き出すことも易しい.
このために、姦通罪はたびたび副作用を産んでいる.
李さんの事例が典型的だ.
うわべだけ夫婦関係を維持するが、既に他人同士と同じ、いわゆる‘同居離婚’状態で、相手方が姦通した事実に対しては真に心の苦痛を感じなくても姦通罪で告訴する事例がたびたびある.
姦通罪廃止論者たちは“これは卑劣な復讐心の発露に過ぎず、国家刑罰権が人間の復讐心を満足させるための道具に成り下がったようだ”と指摘する.
社会・経済的
弱者の女性を保護するべきだという女性界の廃止反対論理も全面的に妥当なものではない.
30台後半の女性 金某さんは、10年近い歳月を夫の暴力に苦しめられながら生きてきた.
こういう境遇にある、多くの女性たちと同じで、“息子たちもいるので、私ひとりが犠牲になって暮らそう”という考えで暮らしてきた彼女は、自分自身も気づかないうちに職場で知りあった男性と近づくようになった.
夫が彼女たちの仲に気がついて、暴力がより激しくなった.
金さんは、性関係までも結んではいないが,
姦通罪が無意識的なくびきとして作用し、積極的な対応が出来ずにいる.
ソウル 女性の電話相談員
パク・ヨンスクさんは“家庭暴力に悩まされて、浮気をするようになった女性たちがどのようにするべきかわからなくて相談してくる事例がある”としながら、“姦通罪が女性の人権を保護する側面と共に、侵害する側面もある”と話した.
この他に、強姦にあった夫人を姦通罪で告訴する事例もたくさんある.
また、配偶者のある男女が姦通した場合、片方は配偶者から許されて正常な家庭生活を回復したのに、もう一方の配偶者の告訴で、結局二つの家庭が共に破綻に達する場合もある.
このように、姦通罪本来の趣旨に沿わない逆効果が厳然とした現実に現れているが,
まだ大衆の意識の中では刑法の姦通罪規定が必要だという考えが優位を占めている.
さる90年、韓国刑事政策研究員が15歳以上の男女1200人を対象にアンケート調査した結果、73.2%が姦通罪は処罰されるべきだと答えた.
姦通を国家が介入しなければならない問題だという見方は、最近<ハンギョレ21>が実施した調査でも大半を占めた.
全国の18〜49歳の女性400人と4つの大企業男子社員102人を対象にした、今回の調査で、男性の37.3%,
女性の78.9%が同じ答えをした. 姦通罪廃止可否については、男性の39.2%,
女性の84.9%が存続を主張した.
こういう世論調査結果で、姦通罪規定が性道徳の堕落を防止する心理的マジノ線の役割をしているという信頼を確認することができる.
特に女性側の方がはるかにより強硬な立場を見せ,
私達の社会に蔓延した享楽的な性文化に対する女性たちの不安と警戒心を感じることができる.
しかし、91年調査の結論は、姦通罪の実效性が微弱だということだった.
姦通罪があるという事実を80%以上が知っていると明らかになったが,
姦通経験がある人から認知度がより高く現れたためだ.
罪になるとはよく知りながらも、男性5人中に1人が売買春以外の姦通を経験したという当時の調査結果は、姦通罪の実效性を疑うのに充分の根拠となる.
女性保護という次元で見ても、実效性は相変らず疑問だ.
姦通した配偶者を告訴するという考え方は女性より男性から強く現われる.
男性たちの二重的な性倫理意識により,
不回避な姦通行為がある場合、姦通罪で罪になる確率は女性が男性より高いのだ.
法が制定された当時に比べて、浮気する女性が大きく増えた世相を勘案するならば、姦通罪を男性たちが活用する可能性はより大きくなる.
大法院統計によれば,
配偶者の不貞行為を理由とする離婚訴訟で、夫人が原因提供者の比率が思いのほか高く現れている.
93年 45.8%, 96年 46.3%, 98年 42.8%
などで、最近は半分に近い数値が維持されている.
ここでいう不貞行為は性的な結合を前提とする姦通を含んだ、より広い意味の概念だが,
この頃の性風俗の一断面を覗くようだ.
姦通罪廃止が女性に不利だというのは、固定観念であるということだ.
刑法学者たちは“一般国民の姦通罪に対する法意識調査は姦通罪が持つ実際的意味を正しく把握できないし、法と現実との乖離があって、私達の社会の規範意識を反映する適切な基準になりうると見るのはむずかしい”という態度だ.
日本の例を上げれば, さる47年の姦通罪条項を廃止した当時、姦通した女性だけを処罰する不平等法規だったことにも国民の69%が反対すると調査で明らかになった.
それも男性 55%, 女性 84%で、女性の反対意見がはるかに大きい.
捜査機関の実務次元でも、姦通罪は死文化する趨勢だ.
懲役刑でだけ処罰した姦通罪に、さる94年、刑法改正で罰金刑が導入され、第一線の検察では拘束を自制して弾力的な法適用をしている.
非倫理性がめだつ場合でなければ、総じて非拘束処理されている.
姦通罪告訴, 大部分が経済的動機
ある地方の家庭法律相談所関係者は“1年で1千余件の相談事例中で実際告訴は
40人程度”とし、“相手方を諭して正常な家庭に戻そうとするよりは、くやしい気持ちと復讐心で告訴するのが大部分”と伝えた.
キム・ギュホン大検察庁ソン・パン課長は“姦通罪告訴の90%以上は、配偶者が信義を裏切ったことに対する弾劾の意図よりは経済的動機で始まっている”としながら、“拘束を原則としていた以前とは違い、家庭が破綻に達するようにした責任がだれにあるのかなどを考慮し、慎重に処理している”と話した.
しかも“姦通は広く行なわれながらも、きわめて一部だけが処罰される‘暗葬犯罪’なので、処罰の実效性と公平性に問題がある”というのが、彼の指摘だ.
外国では性に対する道義観念も、風俗が変わることによって姦通罪を廃止したり完全に死文化する傾向を見せている.
今世紀に入って個人主義的な価値観と性に対する開放的な態度が広まりながら西欧国家では離婚率が高まったが,
それは家族の維持を目的とする姦通罪が廃止され始めたことと流れを共にしている.
1930年、姦通罪を廃止したデンマークは、当時人口 1千名中 0.65名の離婚率を見せ,
スウェーデンは離婚率が0.5だった1937年に姦通罪を廃止した.
この他に、日本(1947年)は1.02, 西独(1969年)は1.19, フランス(1975年)は
1.16 などだ.
姦通罪を維持しているスイスとオーストリア等は、他の国に比べて離婚率が低いほうだ.
韓国は、昨年離婚率が人口 1千名当り6.8人という水準に達した.
男性40代前半の離婚率は13.7人, 女性 30台後半の離婚率は 14.1で、平均の2倍を越えた.
いわゆる‘たそがれ離婚’も急速に増えた.
離婚した夫婦中で結婚生活20年を越えていた比率は、89年 4.8%だったのが98年
13.2%になった. このように家族制度の強固性を表す指標(註:マイナスの)の離婚率は高まるのに,
姦通罪に対する意識には特別な変化がない.
現行姦通罪規定がもっている根本的な盲点さえも看過されている.
現行法で姦通罪告訴は離婚を前提とする.
離婚訴訟訴状を貼付してこそ、告訴状受付が可能だ.
家庭の解体を心に決めないと法に訴えられないのだ.
子女や経済問題のために離婚を願わない多くの女性たちにとって、法は“離婚したくなければ、配偶者の浮気を我慢しなさい”というようなものだ.
また姦通罪の公訴時效は3年であるのに対し、離婚訴訟は不貞行為を知った日から6ケ月,
不貞行為があった日から2年以内に出すようになっていて、告訴可否を悩んで時をのがす場合も生じる.
果して、国家の‘愛情問題’介入は正しいか
離婚を決心する場合、女性の権益を保護するための装置は民法にも用意されている.
91年の法改正で導入された財産分割制度は、離婚を助長する憂慮が出る程に、女性の経済的な安定の助けになっている.
通常専業主婦である場合は結婚以後に形成された財産の30%,
共稼ぎ夫婦である場合は50%の分割を受けている.
離婚事件を専門に扱うチェ・インホ弁護士は“財産分割は女性に家庭破綻の責任がある時にも認定されるだけでなく、法律的な夫婦にだけ適用される姦通罪とは違い、事実婚姻関係にも適用されるために、女性保護の実效性がより大きい”と説明した.
だが、彼は、“姦通を行った後、財産を隠したり借金を操作する手法で財産分割を避けようという一部の男性があるので、姦通罪の必要性は存在する”と話した.
しかし、この点でも姦通罪がもう少し気楽な‘手段’にしかならないのは同じだ.
姦通罪廃止論者たちは、果して男女の愛情問題に刑罰権という強大な武器を持って国家が介入していかなければならないのか、という根本的な質問を投げかけている.
個人の愛情と関連した問題にまで国家が関与し、性的な自己決定権を否認するならば、憲法が保障した人間の尊厳と幸福追及権,
私生活の秘密と自由の侵害を受けない権利を失うということだ.
さる刑法改正論議沸騰時に反対側に立った女性界も慎重な態度を見せている.
女性が社会的弱者として存在するかぎり、廃止を主張できないけれど、原則的には廃止する方向が正しいということに共感を見せた.
ある女性団体関係者は、“姦通問題に国家が介入し、女性を保護しようとするなら、離婚を防ぐよりは、自由に離婚できる環境を作るのが重要だ”と話した.
ジョン・ジェギョン韓国法制研究員首席研究員は“姦通罪が処罰自体を目的としないまま、人間の性を金銭取り引きの対象に転落させているのは、人間の尊厳を規定した憲法に正面から反している”としながら、“姦通事件で手錠をかけられて捕らえられる父母や慰謝料の金額を争う父母を眺める子供たちの悲哀は、姦通罪を論じる皆が最後に通過しなければならない関門”と話した.
姦通罪は原則のみだけでなく、実際適用で大きな人権侵害要素をもっているという指摘だ.
彼は、20世紀を整理する次元で繰り越さなければならない問題の一つとして姦通罪存廃問題を選んだ.
‘国家は相変らず性風俗の監視人でありたいのか,
でなければ性生活問題を個人の責任に任せるか’という設問には、国家と個人の関係設定という,
私達が解決できない大きな問題があるためだ.
果してどう折り合いをつければ最大多数の最大幸福を実現するかに対する答えを求めるのに先立ち、バートランド・ラッセルの言葉を吟味してみるのも良いようだ.
“愛のない同居は むしろ姦通だ.”
パク・ヨンヒョン 記者
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ハンギョレ21 1999年 09月 09日 第274号 .
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