2012年12月ハンギョレ21 939号

明け方4時出勤の交通便 薄着の人々

[2012.12.10 第939号]

[ファン・イラのスマフ通信]
明け方3時30分に起きて歩いて出勤した時に出会った.仕事の妨げになるからと厚い服も着られない苦痛を知っていますか?

さつまいもや大根の根が長ければ、その年の冬は寒いという.
さつまいもと大根はそもそもそのようなことをどうやって知るのだろうか?.
ひょっとしたらと思って、家にあったさつまいもを持っていろいろ注意深くみると、本当に根がずいぶん長い.
心配だ.
このさつまいもの根を見なくても、早く始まった寒さで、今回の冬が真に厳しいものになるだろうと感じるこの頃だ.

≫ 夜明けに働く人々にとって、冬は苦難の季節だ.
会社の建物で、ある労働者が夜明けに清掃する姿.
明け方仕事をする彼らの間の‘同志愛’が互いに支えになることもある.
パク・スンファ記者


切符売場の間に入ってきたさつまいも

毎朝ふとんの外に足からまず出して、冷たい空気に驚いて、またふとんの中に戻っていくばかりだ.
かと言って、睡眠をもっととることができるわけではなく、ふとんの中で‘あと5分だけ’と叫んで不精ばかり行っている.
そうこうしたあと路地から魚売りの声がメガホンを通して聞こえてくれば、やむをえず起きて座る.
“こんなに寒い日, その上、こんなに早い時間に誰が行くの.”
そうこうしたあと、ふっと、私が地下鉄切符売場で非正規職として働いていた時が思い出された.

一日2交代で、一週間ずつ昼間と夜間をかわるがわる勤務した.
昼間勤務である時は、地下鉄一番車が出発する明け方5時以前に出勤しなければならなかった.
そのためには、遅くとも明け方3時30分には起きなければならなかった.
夏はすこしましな方だが、冬季にその時間に起きることは苦役だった.
気候が寒いこともあったが, 時間まで止めてしまったかのように世間がすっかり眠っているその時間に起きて働きに行くという ことが悲しかった.
まだまだ眠いまま入ったトイレではパジャマズボンの中に両腕を突っ込んで座ったままうとうとすることもあった.
そのような時には‘この仕事, 今日行ったら絶対に辞めてこなければ’という考えも浮かんだ.
だが、その無分別な考えはそんなに長引かなかった.
母は毎日のようにその早い時間に共に起きて朝食を作ってくれた.
そして、私がご飯をみな食べるまでそばに座ってくれて, 見送りまでしてくれた.
そして、道で会う人々は私よりはるかに早く一日を始めていた.
出勤時間が早いから、バスや地下鉄は当然乗ることができなかったし, かと言って毎日のようにタクシーに乗ることもできなかった.
それで、地下鉄で2コース程度の道を歩いて出勤してみたら、明け方の市場で荷物を運んで早くから商売を準備している市場商人たちと、一晩中ゴミを片づける道の清掃員たちを見ることができた.
切符売場に出勤して発券を始めると、切符を受け取って明け方始発電車に乗る人々がいた.
無料乗車券を利用する人と福祉カードを持った人が多かったが, 大多数は早い時間から仕事に行かなければならない低所得階層だった.

また、共に地下鉄非正規職として働いていた清掃用役のアジュマ(註:おばさん)たちまで, 私より熱心に、もっと苦労して明け方を迎える人々もいた.
私は時々、その夜明けに私と共に一日を始めた彼らが思い出される.
明け方、眠気が醒めないままの切符売場の中に、絞りあげられたさつまいものような人々、空腹のまま出勤したのだろう清掃用役のアジュマたち.
その方たちは、今頃どこでどのように生きているだろうか.
生活は少しはよくなられただろうか.
彼女たちに労働の代価が公正に返る社会ならばどれくらい良いことか.
私達の社会が最小限でも彼女たちを人間らしく接してくれる社会ならばとても良い.


死亡見舞いどころか“厚着したから”

以前、清掃業務をしていたおばあさんが仕事をやめて、相談所を訪ねてこられた.
以前、私たちの相談所を通して不払い賃金を解決されたおばあさんは、感謝の挨拶のために立ち寄られたようだった.
ところが、寒い気候であるのに、青い清掃ユニフォームに薄いベスト一枚だけで来られた.
“寒いのに、なぜこのように薄着なのですか”という私の言葉に、おばあさんは困ったように笑って、
“寒くないですよ. 私は元気に動いて、外で働いているからか、暖かいものです. そして、働く時に厚着だと仕事が遅くなるから”という.
どんなに鍛練しても、寒さに習熟する人がどこにいるのか.
そのようにおっしゃるおばあさんの鼻の下には透明な鼻水が流れていた.

以前、造船所で刃のような冬の海風に吹かれながら働いていた労働者が落下して死ぬと、会社は見舞金処理をしてくれるどころか、“厚着したからバランスを崩したせいだ”とした.
冬程に薄情で殺伐な社会だ.
落ちて死なないようにするなら冬でも薄着 をしなければならず, 天ぷら油がはねて両腕に火傷させても半袖のユニフォームを着なければならず, 仕事を速くしようとするなら厚い服は投げ捨てるべきという, 非人間的で非常識的な社会にわたしたちは住んでいる.

大統領選挙が鼻先に迫った.
有力大統領選挙候補者中ひとりの公約を見ると、公正性を高める経済民主化, 差別のない雇用市場, 働き口創出, 幸福教育, 安全な社会などを前面に押し出している.
言葉では何を言うのもとても易しい.
ところが、その候補が以前、TV討論会で非正規職差別に対する解決法として非正規職たちが労組を作ってその代表が会社に是正を要求すれば会社が是正をすると言った.
間違った話ではない.
法でもそのようになっている.
ところが、その候補は知っているのだろうか.
大法院の判決も守られずに、送電塔に登った現代自動車非正規職労働者を.
労働組合を作ろうとして切られた数多くの労働者があるという事実を.
からだが痛くて一日休みたくても、人の顔色をうかがって休めない状況で、果して‘私は差別を受けている’と申告できる大胆な労働者が何人になるかを.
これが差別のない雇用市場なのか.
彼らのヴィジョンに労働者の席はない.
うまく行った会社は外国に売り飛ばして, 一生懸命働いた労働者は道にみな追い出して, 人が23人死んでも徹底して無視する国.
3年目の喪服を脱げない人々と国政調査を要求して40日を超える断食と鉄塔上座り込みをしなければならない人々.
死ぬことよりもっとつらい苦痛と責任感で生きていく人々.
これが公正性を高める経済民主化なのか.
調べを受けた女性被疑者をセクハラする検事と、自身が調べた家出青少年の性をお金で買う警察が守る国.
これが安全な国なのか.
自身の社会的地位と名声に汚点を出すことを防いできたハンジン重工業 イ・ジェヨン社長は、毎朝, 職員を呼び集めて官製デモを陣頭指揮する.
これが果して、彼らが言う、法と原則が守られて常識が通じる国なのか.
彼らは全く知らない.
この土地の労働者の現実を.
彼らの政策とヴィジョンに労働者の席はない.
万一、彼らの公約に誠実さと実現の意志がすこしでもあるならば, 今でもウルサン現代自動車非正規職労働者たちに, サンヨン自動車労働者たちに, そして、ユソン, ゼヌン, コルテック, 全羅北道高速, プンサン, ハンジン労働者たちに, そして、済州カンジョンへ行って会うよう願う.
それで、彼らの話も一回くらいは聞いてみることを希望する.


民主労総 釜山本部 相談部長