2007年7月ハンギョレ21 668号

コーヒーミックス, 今日 何杯め?

2007年07月12日 第668号

習慣的に飲むことになる‘大人の不良食品’ コーヒーミックスをよく見てみよう

□ 文 パク・スンジン記者jin21@hani.co.kr
□ 写真 ユン・ウンシク記者 yws@hani.co.kr

 
一日1100万個, 一年43億個を飲む?
論述雑誌<月刊ノン>を作っているシン・グァンシク(32)氏は、去る7年間一日平均7袋のコーヒーミックス(註:インスタントコーヒーとミルク、砂糖があらかじめ1杯分ミックスされたもの)を飲んでいた.
軍隊の時, 疲れた時ごとに自販機でミルクコーヒーを選んで飲んだ習慣が除隊後にも続いた.
一日の活動時間を午前9時から午後10時までとすると、2時間に1袋ずつ飲んでいたわけだ.
各事務室にシン氏のような者たちが少なくない.
コーヒーミックス市場は去る5年間で3倍近く成長した.
2001年だけでも2128億ウォンだったコーヒーミックス市場の規模は毎年増えて、昨年には6047億ウォンに達した.
コーヒーミックス1袋の価格を140ウォン(20袋入りが2800ウォン)として計算すると、年間43億個のコーヒーミックスが売れたという話になる. コーヒーミックスが‘嗜好食品’を超えて大多数の会社員たちの‘生活必需品’になったのである.


△ 毎朝, 私たちを誘惑する多様なコーヒーミックス.
コーヒーミックス1袋を飲むごとに多量の砂糖と飽和脂肪を摂取することになる.


“脂肪・化学添加物を体に注入するようなもの”

コーヒーミックスコーヒー製造過程は簡単だ.
‘コーヒースティック包装の片隅を切る→内容物をカップに入れる→浄水器のお湯を注ぐ→かき混ぜる.’ 数十万名の大韓民国コーヒーミックス愛好家は毎朝同じ動作を反復している.
会社員 ペ・ジンオク(27)氏は“朝眠い時に飲めば目が覚める感じなので, 毎朝飲みます”と話した. “うっかりして飲まなかった日は、‘今日は飲まなかったのか’と気がつけば改めて飲みます”と付け加えた.
各々調製の秘法もある.
産業デザイン専門会社デザイナー キム・ナムヨン(36)氏は“ステンレススプーンでかき回すと熱が奪われて味が落ちるので、必ず内容物を包んでいた包装紙でかき回さなければならない”としながら “かき回す面白さでミックスコーヒーを飲む”と話した.
誰かにとっては1本のコーヒーミックスは1杯の消化剤だ.
主婦 キム・ギョンレ(42)氏は“ご飯を食べてお腹が苦しい時に飲むと楽になる感じがします”と話す. 登山に行く者も、リュックサックに1、2個ずつ必ずコーヒーミックスを入れて行き, 酒を飲んだ翌日は口の中をすっきりするために1杯を飲む.
コーヒーミックスはこのように多様な用途を持って多くの人々を中毒者にしている.

韓国はインスタントコーヒー共和国だ.
コーヒー消費量は世界11位だが, インスタントコーヒー消費量は世界最上位だ.
西ヨーロッパ, 米国などは原豆コーヒーがコーヒー市場の80%を占める. 日本も60%が原豆コーヒーだ.
反面、韓国はインスタントコーヒーが78%を占める.
昨年は9512億ウォンのコーヒー市場で原豆コーヒー販売額は372億ウォンと、位置づけが微小だ.
その代わりにインスタントコーヒーは7452億ウォン, そのうちでもコーヒーミックスが6047億ウォンだ.
家でも事務室でもガラス瓶に入ったコーヒー,砂糖,クリームパウダーをティースプーンで入れて作って飲んだ姿は既に‘追憶’になった.
いまは、横2cm, 縦15cmの縦長型包装がビン入りコーヒーとティースプーンに代わってしまった.
それなら、コーヒーミックスには味だけでなく、健康も‘ミックス’されているのだろうか.
毎日飲むコーヒーミックスには、果してどんな成分がミックスされているのか.
<菓子, わたしの子供を襲う甘い誘惑>の著者アン・ビョンス氏は、“コーヒーミックスをカップに注ぐことは、脂肪と化学添加物を体の中に注ぐことと同じ”と話している.
アン氏は何故そう言うのだろうか.
問題は‘プリマ’と呼ばれるコーヒークリーマーにある.
多くの人々がコーヒークリーマーが牛乳や乳製品で作られたと誤解している.
“主に原豆コーヒーを飲むけれど, 覚醒が必要な時には必ずコーヒーミックスを選びます”という会社員 ユン・ミネ(28)氏も、コーヒークリーマーの成分を訊ねると“牛乳で作ったのではないのですか?”と問い返した.
濃厚な褐色のコーヒーにプリマが入れば‘軟らかい小麦色’に変身するためだ. 味もなごみ、なぜか牛乳の味と同じだ.


特に考え無しに飲み続けることが問題

だが、推察は事実とは違う.
コーヒークリーマーでコーヒーの色を和らげるようにしてくれる主成分は牛乳ではなく、油だ.
植物性油脂(油)を水に混ぜて, 水と油がよく混ざるように食品添加物の乳化剤を入れればコーヒークリーマーができる.
このように、水に油を混ぜて作るから安部 司(<人間が作った偉大ないんちき, 食品添加物>著者)は、コーヒークリーマーを‘ミルク味サラダ油’と呼んでいる.
アン・ビョンス氏はこの油の塊りに各種食品添加物が追加されたものがコーヒークリーマーだと説明する.
味と香りが軟らかいコーヒークリーマーを作るためにカゼインナトリウム, 燐酸カリウム, ポリ燐酸カリウムのような各種食品添加物が追加されるのだ. もちろん、ここに使われる添加物は食品医薬品安全庁が公認したものだ.
アン氏は “だからと言って安心できない”と話す.
“人工的に作られた食品添加物を知らないままにひとつずつ食べるようになれば、一日に数十種類の添加物を摂取することになる. コーヒーミックスの場合、多くの人々が一日に3〜4杯ずつ、特に考えも無しに飲み続けるため、問題が深刻だ.”


△ コーヒーミックスを片づけて原豆コーヒーを飲む<月刊ノン>事務室.
職員は “コーヒーミックスをやめてからは気持ちがはるかに安らか”と話した.


コーヒークリーマーには、予想とは違ってトランス脂肪はない.
その代わり100%飽和脂肪酸だ.
飽和脂肪も多量に摂取する場合は健康に有害だ.
ハン・ジンソク 東医科学大 食品科学課教授は“飽和脂肪をたくさん摂取した場合、心血管系疾病にかかる確率が高い”と話した.
昨年、オーストラリア アデレイド大 心臓専門医 スチーブン・ニコルス博士は“飽和脂肪であるココナッツ油で作ったニンジンケーキとミルクセーキを食べた人の場合, 3時間で動脈内幕機能が低下して, 6時間後には血栓による炎症を抑制する高比重リボ蛋白(HDL)が減少した”という研究結果を出した.
飽和脂肪が血中コレステロール濃度を高めるという研究結果もある.
コーヒーミックスの栄養分析表にはコレステロール含有量が0mgとして書かれている.
クリーマーの飽和脂肪がコレステロールを高めるというのに, コレステロール含有量が0mgというのは‘目隠し’にすぎない.
キム・ジヨン食薬庁専門委員は、“飽和脂肪を一日の摂取カロリーの10%まで摂取するのはかまわない”と話した.
彼はそれに続き、“ただし, 普段動物性脂肪をたくさん摂取する人がコーヒーミックスコーヒーを通して追加で飽和脂肪を摂取する場合、健康に害になり得る”と説明した.

コーヒーミックスを通して摂取する糖分の量も少なくない.
12gのコーヒーミックス1袋に含まれている砂糖は5〜6gだ.
一日にコーヒーミックス5袋を飲む人は、砂糖だけなら40gをつまんで食べたわけだ.
昨年、女性が一日に熱量をたくさん摂取する食品の第4位がコーヒーミックスだという研究結果を出したキム・チョイル韓国保健産業振興研究員博士は“このようにコーヒーミックス摂取量が増えていては, いつか韓国人が摂取する糖分はすべてコーヒーミックスからのものだという研究結果を発表することになるかもしれない”と憂慮した.


合成香料を追加して‘Wellbeingコーヒー’?

最近は、このようなコーヒープリマに対する消費者の不安と‘良い食べ物’に対する人々の関心を勘案し、‘Wellbeingコーヒー’が市場に発表された.
だが、この Wellbeingも気にかかる.
特に韓国ネスレがダニエル・ヘニーを前面に押し出して宣伝している‘Wellbeing ミルクコーヒー’は、一般コーヒーにはないカルシウムを補強するために脱脂粉乳を添加した.
しかし、一般のミックスコーヒーには入っていない合成香料が0.2%添加された.
アン・ビョンス氏は“コーヒーに入っている添加物で最も問題になるのは乳化剤と香料, 色素などであるが、既存のコーヒーミックスにも入っていない合成香料までもを使っては‘Wellbeing’と名付けるのはつじつまが合わない”と話した.
このような疑惑と疑問, 憂慮にもかかわらず、コーヒーミックスの人気は冷めない.
アン・ギョンホ 東西食品広報室長は“国際通貨基金(IMF)危機以後、コーヒーを淹れてくれていた女子職員が大幅に減りながら自らコーヒーを作って飲む文化が定着したうえに、冷・温水器の普及が拡大してコーヒーミックス市場が成長したようだ”と話した.
しかし、アン室長は“コーヒーミックスがコーヒー市場でますます拡大する雰囲気はひたすら喜ばしいわけではない”と話す.
コーヒーミックス販売量が増加することは、そのまま‘景気がよくないことを意味する’という.
アン室長は“人々が仕事をしながら手速く作ってすぐに飲むミックスコーヒーを飲むのは、それだけ余裕がないということだ”と話した.

皆が全く同じコーヒーを飲むことについてのせつなさもある.
コーヒーは濃度の高低にともなう重さ感, コーヒーを淹れる時に出る香り, 苦味から甘味までを決定する酸度などによって数千種類の味を持っている.
ブラジル, ケニア, イエメンなど、コーヒーが産出される国によって味も多様で、気候, 裁培条件, 焙煎方法などによって味が千差万別だ.
コーヒーロースティング専門家 ジョン・グァンス氏は“このように多様な味を知らないまま、皆全く同じコーヒーの味を楽しむ姿が悲しい”と話す.

<月刊 ノン>のシン・グァンシク氏は、7年のコーヒーミックス生活をやめて、いまは原豆コーヒーに変えた.
シン氏の主張で、昨年から事務室に原豆コーヒーの機械を入れたのだ.
おかげで、事務室の同僚たちも主に原豆コーヒーを飲んで、時々コーヒーミックスを愛用する.
シン氏は“7袋ずつ7年間持続したコーヒーミックス生活の間は体の中が重い感じだった.
いまは体の中がさっぱりしている”という.
コーヒーミックスには忌み嫌うべき‘悪い’成分が入っているというわけではない.
時々1杯ずつ楽しむのはもう一つの楽しみでもある.
ただし、なんの考えも無しに一日に何杯もミックスの袋を空けると, 腹の周りに治癒出来ない飽和脂肪を溜め込むことになることが明らかだ.
大人の不良食品, コーヒーミックス.
なにげなく袋を開ける前に、‘この中に何が入っているのか’‘今日は何杯飲んだか’と、自問してみよう.