2006年05月11日 第609号
貴方の目には彼らが見えたか
狭くて劣悪な環境の控室で辛い毎日を送る京仁線の透明人間 清掃夫たち…
何故、彼らは一般の労働者があまりにも平凡に享受していることを切に求めるのだろうか
□ ナム・ジョンヨン記者
fandg@hani.co.kr
□ 写真・クァク・ユンソプ記者
kwak1027@hani.co.kr
“私たちは透明人間です. 誰も私たちの存在を知らないのです.”
京仁線(ソウル・仁川を結ぶ鉄道路線)仁川駅の清掃用役労働者 キム・ジェチョル(68)氏.
ケン・ローチの映画<パンとバラ>に出てくる労働者の話のように, キム氏はネクタイを締めた人々には見えない.
一般人の視野から習慣的に除外されるキム・ジェチョル氏は明け方6時に出勤し、作業服に着替えた瞬間に透明人間 清掃夫となる.
もう敬老優待対象である六十歳のおじいさんではない.
ネクタイを締めた人々は彼らの居場所をまた注意深くみない.

△清潔な駅舎建物中に劣悪な用役控室が隠されている.
仁川駅清掃用役労働者 キム・ジェチョル氏はそこでラーメンで昼食の代わりにする.
正式名称は‘用役控室’.
清掃用役労働者たちが鋭い寒さにからだをこごらせ, 昼食の弁当をかきこんで, 夜間勤務後に横になる所だ.
用役控室は出退勤のサラリーマンたちが行き交う階段の下の倉庫や, 臭いがまださめやらない公衆トイレのそばに小さな小屋のようについている.
役務施設 2029坪, 用役控室 2〜3坪
4月中旬に訪れた仁川駅用役控室は、薄い壁を間に置いてトイレの隣りにあった.
ドアを開くと一坪にも足りない空間で、いやな匂いが漂っていた.
かびが生えた壁には新聞紙が束になってぶら下がっていた.
キム・ジェチョル氏はリサイクル分離作業を終えた昼12時, 押入れのような用役控室でうずくまり、ラーメンをすすっていた.
“私たちを人間扱いしないのか? 去年の冬にはそれが明らかでしたよ. ボイラーが故障して、わたしたちはがたがた震えていたのです.”
故障したボイラーを修理してくれと仁川駅職員に頼んでもはや3ヶ月.
そばでラーメンをすするのを見ていた 同僚労働者 イ・ビョンファン(67)氏が溜息を吐いた.
それでも、ジュ・ミョンニョ(62)氏が出入りする女性用役控室はさる2月に電気パネルが敷かれた.
風邪を何回もひくことを繰り返してからの遅い冬だったが.
男性用役控室は‘火災危険’があるという理由で、暖房装置無しで越冬した.
キム氏は結局同僚2人などの3人が2万ウォンずつを出し合い、自ら電気パネルを買って敷いたと話した.
“今夏が心配です.冬はそれでも耐えられたけれど, 夏はとても暑くて我慢できないでしょう.”
仁川駅から東方へ9駅をすぎれば富平駅だ. 仁川地下鉄乗換駅としては仁川管内で2つ目に流動人口が多い駅だ. 高齢労働者6人が3交代で富平駅を磨く.
“富平駅はあまりにも大きく、階段が13もあります。 ゴミ袋を持ってこの階段あの階段と昇っては下りると、腰が潰れるように痛みます.”
夜間勤務のシム・スンジャ(66)氏がそのように働いて休むために入っていった用役控室は鉄路の欄干からの階段下に埋もれている. 大きさは2〜3坪.
これに比べて役務施設は2029坪で, 商業施設を含んだ総駅舎面積は1万6900余坪.
ドアを開くと漂ってきた湿っぽい臭いは5秒で嗅覚をマヒさせた. 壁には通りから拾ってきたロッカーが立っていた.
2名が横になればぎっしり埋まる程度の大きさ.
シム氏はそこを男たちと共に使うしかない.

△清掃用役労働者は大部分が50歳以上の高齢だ.年齢を上回る労働強度だが、楽に休める所がない.
“夜10時に出勤すれば、当然服を着替える所もなく, 他の駅では互いに意識 せずに服を着替えるというですが….”
富平駅から東方へ2駅すぎた松内駅の用役控室もやはり階段下にあった.
女性用役控室は別にはなかった.
今年六十になった女性労働者 キム・ハレ氏は事務室を改造した2〜3坪の清掃道具倉庫内に休む所を用意されていた.
“終点で4年間電車を清掃して磨きました.そうこうしながらも腰痛のために1年半休んだのですが,
たまたま腕が痛くて辞めた人が出て、こちらに戻りました.”
男女区分もなく、水道施設もなく…
一日中仕事をしたらまだ腰が痛むキム氏は昼食時間20〜30分の暇を見つけて床に横になる.
段ボールを広げた後, その上に電気カーペットを敷く.
洗剤を濃厚に吸い込んだ雑巾から漂う臭いが鼻に障ったが, 彼女は“においがしない”と話した.
“清掃おじいさん・おばあさんの休憩室として部屋を地上層のプラットホーム側にひとつ用意しようとしたのですが, 容易ではなかったのですよ.
電鉄区間だと電気・水道を引くのが容易ではなかったのです.”
キム・ジェチョル 松内駅長は、それでも今年駅舎建て増し工事が完工すればちょっとはよくなるはずだと話した.
民主労総女性連盟が4月6日に実施した京仁線用役控室実態調査を見ても、劣悪な環境がそのまま現れている.
京仁線20駅中で男女区分がない控室は17ケ所, 水道施設がない駅は10, 換気施設がない駅は仁川駅など3ケ所だった.
イ・チャンベ 女性連盟委員長は“全国の地下鉄・電鉄 中で、京仁線は清掃用役労働者の作業環境が最悪”と話した. 2002年の大邱地下鉄放火事件後,
各地下鉄駅の用役控室に電気オンドルを敷いたのだが, 京仁線だけが‘受恵’できなかったのだ.
京仁線清掃用役労働者は電気オンドルだけでも敷かれていたら‘ホテルの部屋’と話す.
仁川地下鉄清掃用役労働者たちは闘争の末に用役控室に浄水器を入ることにも成功した.
清掃用役労働者がこのような作業環境を持つ理由はなにか.
イ委員長は“韓国鉄道が最低価落札制で用役業者を選定したため”と話した.
入札価格の他にも、技術的要因, 受注実績, 財務構造も評価されるが, 入札価格がもっとも大きい影響をおよぼす.
韓国鉄道の2004〜2006年京仁線20駅の清掃用役業者入札では(株)SDKが選定された.
韓国鉄道が3年間(株)SDKに払う金額は86億6900万ウォン. 落札予定価である128億ウォンの67.6%水準だ.
韓国鉄道は用役受注企業の低価格競争で約41億ウォンを節減できたが,
用役業者としてはネズミの尻尾ほどの経費で利潤を残そうと費用が少なくなるようになっていて,
やむを得ず最低賃金だけを支給すれば終わりという態度が現れる.
労働者たちの健康や福祉は後まわしにされるようになるのだ.

△松内駅の女性清掃労働者が休む空間.段ボールと電気カーペットであらまし席を作った
(株)SDK関係者は“韓国鉄道から受け取る金はほとんどみな人件費として出て行く”としながら“毎年最低賃金が引き上げられて, 人件費と4大保険,
清掃道具費用を払えば余らない”と話した.
韓国鉄道の担当実務者はこれに関してこのように話した.
“決まった基準によって審査するのですが、低価格で入札されれば止むを得ないのです. 用役業者が受注を受けようとしたら入札価格はどんどん低くなり,
用役業者は安値で落札して費用の大部分を賃金支給に使うことになります. 一種の道徳的弛緩でしょう”
韓国鉄道の最低価落札制が問題だ
韓国鉄道は用役控室の場所と施設を提供すべきで, (株)SDKはこれに入っていく備品を提供したり、その他管理責任を負う.
とにかく、用役控室の劣悪な環境は両者共に責任があるのだ.
<ハンギョレ21>の取材が終りに近づいた5月2日、韓国鉄道は'鉄道駅舎清掃員勤務環境改善案’を133駅に送った.
改善案には40駅の用役控室と36駅の厚生施設を改善して、シンク台と洗面台などを控室に設置するなどの指針が込められた.
松内駅用役控室は最優先改善対象に選ばれた.
韓国鉄道旅客事業本部関係者は、"2月から実態調査を繰り広げた”としながら、"予算を考慮し、清掃労働者が多い駅から改善工事を実施する"と話した.

△富平駅の広い階段を清掃し、休息を取ってみようとしても、男女区分がされていない休憩室が女性労働者には不便なばかりだ
京仁線清掃用役労働者の願いは、格別なものではなかった.
一般人の視線から習慣的に排除されてきた清掃用役労働者をきちんと見てくれという叫びだった.
したがって、一般労働者たちがあまりにも平凡に享受していること, 人間として当然享受するべきことを利用できるようにしてくれということだった.
浄水器を設置してくれということ, それもできないのなら水道でも入れほしいということ, シャワールームを利用できるようにしてくれということ,
脱衣空間を用意してくれということ, 換気扇があったら良いということだ.
“必ず貨物エレベーターに乗れ”
不当解雇と最低賃金問題で疲れたKT高陽電話局の清掃用役労働者たち
最低賃金ラインをさ迷う彼らにとって、労働環境権は腹がふくれるものだろうか.
劣悪な賃金と危険な雇用状態は労働者が不潔と非人間的な労働環境に予め対抗する余裕すら与えない.
去る4月12日、韓国通信(KT)と高陽電話局で会った労働者たちは不当解雇と最低賃金問題にも既に疲れ果てていた.
“毎日7〜8時間働いて稼ぐ月賃金が60万ウォン台です. 70万ウォンを越えることが減りました. 人も減って仕事は増えるのに,
賃金までも縮めるとは….”

△清掃労働者たちは不当解雇と最低賃金問題にも既に疲れ果てていた.
労組活動で解雇されたが復職したハム・チュンジャ氏.(写真/パク・スンファ記者)
用役業者が変わりながら解雇されたが、最近復職したハム・チュンジャ(54)氏の話だ。
昨年末、韓国通信 高陽電話局は清掃用役期間の満了によって用役業者をグッドモーニングFからKTMへと変えた.
“契約書をちょっと遅く出したからと解雇になる法がどこにありますか?
新しく変わった勤労契約書を見ると賃金が減っていてちょっと考えてしまいました.
ところが、締切時限までに出さなかったと否応なしに切るとは….”
新しい業者であるKTMは労働者の雇用継承を約束したが, ハム・チュンジャ氏等6人は解雇された.
皮肉なことに解雇になったハム氏など6人はその時まで会社が要求した労組脱退書を書かなかった人々だった.
彼らは水原地方労働庁に救済申請をする一方、1月から会社前で復職のためのピケデモを繰り広げて、4月初めに復職した.
大企業や大規模新築建物の労働環境はそれでもまだよい.
だが、京仁線と比べて比較優位にいるだけで、絶対的に良いわけではない.
真暗な建物の地下にあるこの会社の用役控室は6〜7坪で多少大きかったが, 20余名が共に使う場合には広くは見えなかった.
清掃用役労働者はまた正規職職員からは徹底的に見えない存在として生きなければならない.
彼らは出退勤時も一般エレベーターではなく、廊下裏側の貨物エレベーターに乗るように教育を受けた.
ハム氏は“用役業者が職員に会ったら挨拶しろと教育されたが, 挨拶を受けてくれる職員は多くない”と話した.
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“肩の痛みに目も熱い”
巨大な間接雇用の高波を体験する清掃労働者の健康問題深刻
パク・スンナム‘健康な労働社’事務処長は、“最低賃金水準にさまよう非正規職労働者の労働環境権は、これまで主要な問題として取扱い出来なかった”としながら“非正規職労働者の健康問題は正規職員よりはるかに深刻”と話す.
清掃用役労働者に対する唯一の健康統計といえば、2004年健康な労働社会がソウル都市鉄道工事労組,
女性連盟と共にした清掃用役労働者健康調査程度だ.
それも下調べ段階で、これ以上はかどらなかったが, 労働者たちは △安全事故 △筋骨格系疾患
△有機洗剤毒性などの危険に露出されていると現れた.
調査チームの面談過程でソウル地下鉄5〜8号線清掃用役労働者たちは“無償提供新聞の増加で労働強度が激しくなった”“肩の痛みで働くのが難しい”“洗剤を使用する時に目が熱くなって、皮膚に着くと痒い”“作業服洗濯のための粉石鹸さえ支給しない”というなどの反応を吐き出した.
非正規職の健康管理は正規職よりはるかに遅れをとっている.
ジョン・ジンジュ
女性開発院研究委員が‘職場女性の健康関連実態調査’(2001)の設問結果を土台にして書いた‘非正規職女性勤労者健康増進方案研究’(2005)という論文を見ると,
会社内の保健教育は正規職女性の41.7%に実施されるのに対して, 非正規職女性には13%だけが実施された.
定期健康検診の場合, 正規職女性は76%が受けるのに比べ、非正規職女性は41%に過ぎなかった.
現在疾病がある人のうち、治療中である人は正規職女性の27.4%, 非正規職女性の20.9%が現在治療していると応答し,
非正規職内でも日雇いと修習職は50%以上が治療していないと現れた.
韓国に新自由主義の風が押し寄せてきた後, 最も巨大な間接雇用の波高を体験したのが、まさに清掃労働者たちだ.
1990年代以前、清掃労働者は大部分が直雇用形態を帯びていたが, いまは大部分用役職として転換された.
この過程で小資本の用役業者が乱立するようになり, 清掃用役労働者はその年の用役契約単価によって一年間の生活が振り回される境遇になった.
清掃労働者は雇用可否, 賃金条件, 労働環境が用役単価によって決定される低費用構造の犠牲の羊だ.
‘ダンピング契約’であるほど月給は最低賃金を抜け出せず, 労働者の健康は後まわしにされる.
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