[ 人と社会 ] 2001年10月17日 第380号
カミングアウト1周年を迎えた芸能人 ホン・ソクチョン…
人権団体に参加して、本格放送活動準備

写真/ カミングアウト1年ぶりに笑いをとりもどしたホン・ソクチョン. 彼にとって死刑宣告も同じだった放送界追放という鎖も和らいだ.(パク・スンファ
記者)
“うまく過ごしてる?” なぜか、彼と会うときは間違いなく飛び出してくる挨拶の言葉だった.
“うまく過ごすことができない、なぜ?”鼻先まで帽子を目深に被っていた去年の冬, 彼の返答だ.
“まあ、どうにかこうにか.” 天候が緩み始めると, 彼の声もすこし温まってきた. 会う度に心配で、安否からたずねなければならない人.
カミングアウトした芸能人 ホン・ソクチョンの1年は、そのように流れた.
侘びしいカミングアウトインタビュー(<ハンギョレ21> 327号)をしてから382日ぶりに、カミングアウト1周年インタビューを持った.
今度は愉快なおしゃべりがほとばしり出た.
失業者の身分を抜け出し、忙しい日々
-この1年を顧みると.
=初めの内はぞっとしました. カミングアウトするやいなや、放送から‘アウト’させられたから. (笑)
数ケ月間は、朝起きてから夕方まで、終日ぼうっと座ってタバコばかり吸っっていました. 苦しいから、酒も飲むようになって.
夜も眠れなくて、茫然とケーブルTVをつけておいてニュースを見たりしました. 言葉そのまま、失業者身分でした.
-何が一番辛かったか.
=自分の思うようにできることがなんにもなかったのです. 誰かが‘君を赦すから、一緒にやろう’と言われる前に,
まず出ていって‘何かをやろう’と言える境遇ではなかった. そして、人があまりにも恋しかった・・・.
どこまでせっぱつまれば、自ら希望して知りあいがやっている飲食店に行ってウェイターをやるでしょうか?
通う時にもわざわざ地下鉄に乗って通ったりしました. 人に会おうと.
-逃げたいという時はなかったか.
=学費をあげるから、外国に行って勉強しろという後援者もありました. よくよく考えて、辞退しました.
ここで逃げれば、永遠に敗北者になるのではないだろうか? 歯をくいしばって忍びました.
しかし、世の中とは、とても冷酷なだけのものではなかった.
知識人100人と同性愛自認権運動団体は、‘ホン・ソクチョンのカミングアウトを支持する集い’を作って彼を助けた.
支持に報いるように、彼のこの1年は人権活動にあてられた. 人権映画祭と民家協コンサートで司会を務め, ゲイパレードに率先し,
同性愛者差別反対共同行動の集会にたつこともした. その間、全国を縫って数多くの大学講演に通った.
-人権活動にためらいはなかったか.
=周辺では、みな、‘放送復帰を早くしたいのなら口を閉じていなさい’と止めました. ‘はい’と言いながら背を向けましたが,
そんなことならカミングアウトするわけがなかったのです. カミングアウトをしたことで、後ろから私を見守る同性愛者たちも考えるようになって,
知らず知らず責任感が感じられました.
-前のマネジャーと別れたのも、人権団体活動に対する見解の差のためだとか.
=スポーツ新聞を通じてカミングアウトした時, マネジャーは同性愛である事実を伏せておけと言ったのです. その後、人権活動にたつことにも反対しました.
結局、私は私自身を認めたから、共に仕事をすることができなかったのです.
-人権活動を通じて得たものがあるならば.
=芸能界にだけ埋ずまっていたなら、会うことができなかった人々に出会いました. ちょっと前に大学の同性愛者キャンプに行った時,
ある学生が、‘私は男と女の性器を共に持って生まれた’と、カミングアウトをしました.
その時、世の中には私が考えたこともないような痛みが多いことを知るようになりました. 今後もしなければならない事がとても多いと感じました.
“誰もカミングアウトを強要する権利はない”

写真/ ホン・ソクチョンは、この1年間、人権活動で忙しい日々を送った. ゲイパレードに参加した姿.(パク・スンファ記者)
インタビューが始まって30分程過ぎただろうか. 彼の携帯電話が鳴った. 一生懸命に熱弁を吐いていた彼の声が、突然やわらいだ.
“この兄がまた電話するから.”
電話を切る彼の顔に笑みが浮かんだ. 電話をかけてきた人が誰なのか気になった.
-恋人ですか.
=(笑)いいえ. カミングアウト支持サイトを作ってくれた高校生ファンです. この友人も、同性愛者で、幼い年齢ですでに自殺を3回も試みたというのです.
私がカミングアウトした後、“重い荷物を一人で背負ってくれてありがとう”というe-mailを送ってきて知ることになりました.
変態だと追い詰める世の中で, 同性愛者が思春期を無事に通過することは容易ではありません. 幼い同性愛者たちの手本になったと考えると肩が重いです.
-カミングアウトが持たらした、また別の変化は.
=本当に親しい人と、外面だけの人を区分するようになりました.
-家族は衝撃から抜け出したのか.
=かなり良くなりました. はじめは、両親が‘農薬を飲んで一緒に死のう’と言っていましたが…. 最近は‘なぜ、放送できないんだ?’と心配してくれます.
親戚たちも暖かく迎えてくれて. まだ、完全に理解しているということではありませんが, ますます良くなっています.
-うれしい事といえば.
=自分の魂を欺かなくても良いから, 何より自らに率直だから良いです. 他人の顔色をうかがう必要がなく,
週末にはゲイバーに行って、楽しく踊る事もできます. (笑)
1年前が思い出された. ソウル 薬水洞のアパートでカミングアウトインタビューをした日,
彼はゲイバーが密集している梨泰院のあかりを見て、“友人が近くに居るのに行くことができない…”と嘆息を吐きだした.
カミングアウトのおかげで、彼は同性愛者共同体の‘歓迎を受ける’同僚になった.
-同性愛者の友人はたくさん増えたか.
=(笑)数え切れないくらい. どこに行っても暖かく迎えてくれるので、本当に有難いばかりです.
-一方では、貴方がカミングアウトをしたために同性愛者たちが困ることになったという話もある.
ひょっとすると、同性愛者であるという事実が明るみになるのではないかという.
=自らがオープンにされているわけでもないのに…. カミングアウトは、あらゆる同性愛者に与えられた人生の宿題だと思います.
敢えて明らかにしたくなければ、息を潜めていれば良いのです. 誰もカミングアウトしろと言う権利はありません.
でも、恐れだけから抜け出れば、幸福がくるという事実も知れば、とも思います.
カミングアウトは、彼に幸福な日常を抱かせた代わりに、仕事をする喜びを持って行った.
“一日でも仕事ができなければ不安になる”と告白する程仕事中毒のホン氏. 彼に下されていた放送追放の鎖は、さる5月, 文化放送の朝のプログラム,
<モーニングスペシャル>に出演することで和らいだ. カミングアウトして8ケ月ぶりだった.
-また帰ってきた時の心情は.
=うれしかったけど、次の恐れが先んじました. 視聴者の反応がどうかわからないから. 非難する人々もありましたが,
幸い周辺の方が手助けしてくれて耐えることができました. 実は、放送復帰には2年ほどかかるだろうと予想していました.
社会が早く変わるということを皮膚で感じました.
-いまだに以前のようには、放送で頻繁に見ることができない. 障害物は何だと思うか.
=道に出れば、人々は‘なぜ放送に出てこないのか’と尋ねます. でも、放送出演はむずかしいのです. なにぶんにも放送社側で負担を感じているようです.
この問題も徐々に解けています. まもなく、TV娯楽プログラムにレギュラー出演するようになりそうです.
放送レギュラー出演… エイズ予防活動関心

写真/ 1年前のこの時期、ホン・ソクチョンはカミングアウトの苛酷な代価を支払わされた.
当時、<ハンギョレ21>とインタビューする姿.(カン・ジェフン 記者)
“1年ぶりの実質的な復帰”だと、彼はすこし浮かれていた.
1年間、放送関係者にも少なくない変化があった. 彼がブラウン管から押し出されていた間, トランスジェンダー ハリス氏は人気者になっていたのだ.
妙な交錯だ. ハリス氏に対する彼の考えが気になった.
-ハリス氏に嫉妬を感じないか.
=全く. 敢えて話さなくても, その友人が生きてきた過程が、相当難しかったということを知っているから. 感じられるから.
むしろ、難しいことをやり遂げているのが誇らかです.
-ちょっと大それた話だが, 貴方をプアソンと同一視する人々もある.
=TVで見られる私の姿はあくまでも 演技です. ユン・デフン先輩が浮気者の役をしても、浮気者ではないではないですか.
たとえ、私が極端に戯画化されたゲイ キャラクターのプアソンのような役をまたしたとしても、それは単に演技であるだけです. 私がどうだとか,
ゲイはみなどうだとかいう推測はしない方が良いです.
-最後にしたい話は.
=私の家族, 友人, 職場の同僚…. どこにでも同性愛者はいる. 単に知らずにいるだけ ‘いない’人々ではありません.
もし、同性愛者である事実が知られても、頼むから追い出さないで欲しい. 彼らにも生の目的地まで行く権利があります.
同性愛者には“どんな困難に処しても、自身を大切にすれば良い”と,
異性愛者等には“同性愛者を頼むからエイズ患者だと見なさないでください”と要請しました. そして、機会があれば,
エイズ予防活動に取りかかりたいという.
カフェのドアを出て, 今度は、彼がまず “うまく過ごしましょう”と別れの挨拶をした. 明るく笑って.
シン・ユン・ドンウク 記者 syuk@hani.co.kr
|